魔法石の密造人/黒曜石と水晶とどっちが良い?
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「これ、どうぞ。期限が近いらしいですし、クリュエルが作ったのかどうかもわからないですけど。他の作者の粗悪品みたいなんですけど、けっこう威力あるっぽいですし」

 いつぞや初めて自分の作った魔法石器を手渡したのは、新妻と幼い子供を魔族に殺されて復讐に狂った初恋の年上の彼に。
 どうせどんなに止めても無駄だろうし、普通の人間が丸腰同然で魔族に立ち向かったら百パーセント殺されるだけだ。練達の戦士なら勝算はあるが、守備軍は「裏協定」で政治的に抑え込まれて思うように動けない(警察だって追及できない、公然たる無敵の完全犯罪なのだ)。
 しかも最寄りの反魔族のレジスタンスの拠点はここから遠いし、戦力や人数の少なさからして復讐に手を貸してくれるかもこころもとない。ときどきパトロールして牽制や報復行動はしていても、頻度は高くない。
 殺されたあの新妻さんのことは、嫉妬や焼き餅しながらもそんなに嫌いなわけではなかった。あの赤ちゃんのことも、少し妬ましく羨ましかったけれども、可愛かった。だから私だって、心のどこかで「ざまーみろ」と思いながら、本気で同情はしていたし悲しんだり怒ってもいた。
 もしも私が魔法石器を渡して持たせてあげていれば、ひょっとしたら守れたかもしれない。でも消費期限が一ヶ月足らずだから、頻繁に渡していたら自分の秘密が疑われる。もしバレれば自分が魔族やその手先たちから狙われる。自分自身の安全や保身もあったし、確率やリスクとしても「まさか」とか「大丈夫だろう」とか思っていた。結果、私があの赤ちゃんをからかって、新妻さんにご馳走になったお茶を飲みながら愚痴って皮肉って帰った数時間後に、彼らは惨禍に見舞われた。

「へえ? 本当に? クリュエル以外にも、そういう人っているんだな」

(いるよ、あなたの目の前に)

 なにげない態度で、誇らしさや優越感。
 できるだけポーカーフェイスで話を合わせた。

「うーん。定期マーケットの行商が投げ売りで安く売ってたから、ためしに半信半疑で買ってみたの。それで一個使ってみたら破壊力はあるみたいでびっくりした。期限が近いらしいから、軍の放出品とかじゃないかな? 刻印や製造の日付がないみたいだから、たぶんクリュエル以外の無名の人が作ったんじゃないかな?」

 遠い別の辺境地方では、同じような能力がある反魔族レジスタンスの有名なリーダーがいるそうだ。
 彼、クリュエルの魔法石器は、こちらの地方にも流れてきている。一年や二年は効果が持つし、一日に数十個も百個も作れるから、無力な人間たちにとっては切り札になるし、軍には常に一定量が密かに納入されている。その製造品は出回ってはいてもやはり貴重品でもあるし、優先して確保している軍や警察は「裏協定」に足をとられているのだった。

「きっと、守備軍の人たちも、自分たちのパトロールや取り締まりだけで限界あるから、こっそりおつとめ品を民間に出してるのかも。それで魔族には脅しや仕返しになるだろうし」
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