魔法石の密造人/黒曜石と水晶とどっちが良い?
「ありがたい。君にも感謝するよ」

 言葉はそのままの意味でも、彼の目は仇への憎悪と復讐にはやる気持ちでギラついていた。
 とっさに、不安を覚えた。
 偶然の雰囲気となりゆきで魔法石器を手渡してしまったけれど、変な義務感や義理感情で私は間違いを犯したのかも。
 これでは彼に余計に危険な行動を焚きつけてしまったようなものだ。たとえ仇の魔族やその手下たち(人間にも魔族側のマフィアがいる)を討ち果たしたところで、そのあとをどうするというのか? このまま無事にここで平穏無事に生きていられるとは思えない。
 思い至ったとき、背筋が寒くなった。
 わかっていたはずだ。
 最初に彼を見舞ったのは、慰めたり迫るためだったはずなのに(新しい恋人や二人目の妻くらいにはなれるつもりでいた)、自分の思惑や期待がどこか浅ましい気がしたり、妙な義務感みたいなのが湧いてトンチンカンしてしまったのか。
 だんだん頭の回転が変になった。
 それでさらに、わけわからない言葉が出た。

「他にもあるよ」

「?」

「魔法石器、まとめ売りしてた。それ以外にも。たまたま興味本位もあって買ってきて、おすそ分けしようかと思って忘れてた。もし早く渡してたら、こんなことにならずに助かってたかも」

 感情が高ぶって呂律が回らなくなっているというのに、喋っていることの辻褄は意外と合っていた。きっと追い詰められた頭がフル回転していたのかもしれない。
 ポロポロ泣きながら、私は言った。

「私もやるよ」

 彼は驚いて当惑の面差しになった。まさかそんな形で巻き込むとは思っていなかったのだろう。

「それは」

「あの子、めちゃくちゃに食べ散らかされてた」

 制止の言葉を言葉を途中で遮って、ジッと強い涙目で見返す。あの子、は彼と新妻さんの赤ちゃんのことだ。運び出している酷い遺体を見てしまったのはトラウマになっている。
 本当は自分でも許せないし、どうにかしないとかりそめの安息すら得られない。犯人の魔族が野放しになっていて、この辺りに潜伏や徘徊しているだけでも恐怖だった。

「やるんだったら私も手伝うよ。それか復讐やめておいて、私と結婚するのでもいいけど。あなたがどうしても戦うんだったら私も一緒に協力する。そうでなきゃ、一緒に逃げて。私だって、怖い」

 半泣きで興奮しながら混乱した言葉が転がり出して、ついつい本音も混じって、勢いでとんでもない告白までしてしまった。
 彼はしばらくためらっていて、いったんに「わかった」と言った数分後に「やっぱり君はだめだ」と逡巡したりした。私は自分からキスして、睨みつけてテコでも動かない無言。それで結局、二人で犯人を仕留める冒険が決まった。
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