魔法石の密造人/黒曜石と水晶とどっちが良い?
4
 つかぬことを考えているうちに、魔法石の反応する共鳴音と光が瞬いた。
 どうやら先に襲われたのは彼のようだった。
 てっきり、まず餌食として魅力的なはずの自分が襲われるだろうと思っていたのだが、先に見つけた男を先に始末することにしたのか。

(よぉし! これで終わりだわ!)

 どうせ襲われるのが、どっちが先であっても構いはしない。二人がかりなのだし、自動防御・回復の水晶も手渡してあるのだから、アネットが駆けつければ十分に間に合うことだろう。
 一口に「防御」や「回復」と言っても、様々な種類がある。普通は打撃や切りつけのような物理的パワーでの被害を防ぐものや、魔法や呪いを退けるものが多い。体力回復や傷を治したり、特定の病気や症状を治したり緩和する回復もある。
 だが、アネットの「防御と回復」はそれだけではないのだ。大きな怪我や致命傷を負った場合に、彼女の魔法石はそれを一回だけ無効にできる。自分自身が殺されて生き返ったこともある。彼女の攻撃魔法は付呪された黒曜石においても月並みだが、水晶ならば最も高度な防御・回復魔法の一つを込められる。もしも時間的な減衰での期限さえなかったら、高級アイテムとして相当な高値がつくに違いなかった。
 息を切らして、木立の暗がりに駆けつける。
 月明かりのなかで、服の破れた彼が身を起こすところだった。血の臭いがするのは、攻撃を防ぎきれずに傷を受けたのだろうが、もし重傷や致命傷だったとしても自動回復しているはず。
 そして、もう一人の人影。
 状況から判断すれば、魔族に違いなかった。

(このっ!)

 アネットは、三個の黒曜石を一度に投げつける。投げ方のコツは普段から練習していて、わざと散らばって一定範囲を爆発と炎で埋め尽くすようにする。魔法による爆発や炎は、単純な物理エネルギーと違って「範囲や方向をコントロールできる」便利さがある。
 閃光と揺れる火影にたじろぐ男。牽制は成功だったけれど、まだダメージは十分でないらしい。倒れたところから立ち上がりかけた味方の彼は、まだ呆然として攻撃に出る気配はない。
 今度は狙って、二つを投げつけた。それを見て、ようやく我に返った彼も黒曜石を投げる。二方向から同時に攻撃し、魔族の男は終わりであるかに思えた。
 しかし、忌まわしい魔族犯罪者の周囲に青い光が取り巻き放たれて、とどめになるはずの攻撃は防がれてしまったらしい。


5
 暗闇の中で、男が笑っていた。
 その手に高く、青く光る何かを掲げて。

「今日はとてもツイている。これを作ったのはどちらだい?」
 
 私ははっとした。
 忌々しい魔族の犯人が手にしているのは、私が新妻さんと赤ちゃんのために、出生のお祝いとお守りで渡して持たせた、二つのブルーサファイア。片方は首飾りで、もう一つはおしゃぶりの把手(あとでネックレスに出来るように金具付き)。あの惨劇で戦利品のつもりで奪ったのか。
 どうやら自分は黒曜石と水晶以外で、宝石でも巧みに付呪が出来るらしい。昔に安物の宝石で試してみたところ、黒曜石や水晶よりも長持ちしたり効果は大きいようだった。攻撃魔法を込めると使用時に砕け散ってしまって金額的に割に合わないが、緊急時の防御や回復用途なら定期的にパワー充填すれば何度でも使用できる。
 だから「お守り」と偽って渡して、機会がある度にパワーを補充していた。恋仇にそんなことをするのは変かもしれないけれど、やっぱり仲の良い年上の友達でもあったし、赤ちゃんが可愛かったのだから仕方がない。ひねくれた意趣返しと優越感や自己満足も動機と理由なんだろうけど。
 ともあれ、自分の愛が何の役にも立たず、かえって敵の手に渡って自分たち自身に不利を招いてしまったのは皮肉の極み。この手の魔法武器(や道具)の扱いが難しく、正規の製造や販売に規制があったりするわけは、一度作ったものが誰にどんなふうに使われるかわからない危うさにある。
< 5 / 8 >

この作品をシェア

pagetop