魔法石の密造人/黒曜石と水晶とどっちが良い?
7
中空に吊り上げられて乳房をもてあそばれ、そんな悲痛と苦痛の中で、彼が四つんばいで吐血しているのがわかる。さっき蹴り飛ばされたことで、内臓までダメージを受けているらしい。
急がなければいけない。私が投げ捨てたままになっている水晶を使えば治癒して助かる。
勝算なら、全くないわけでもない。
なぜなら、私は全ての武器を失ったわけでないのだから。
(お前は馬鹿だよ、バーカ!)
涙を流して悲鳴を上げながら、私の頭の中で冷酷な思考の言葉がよぎる。
この魔族男が首飾りぶら下げているブルーサファイアは、元々は私が作者で魔法石に仕立てたもの。こんな近い距離だったらコントロールを奪えるし、揺れるうちに何度も私の裸の肌にぶつかっているんだからなおさらだ。
しかも、特定の宝石類は黒曜石や水晶と異なって複数用途に使えたり、パワーの充填も早くできる。そもそも、まだパワーが残っている。
「死んじゃえ、バカ」
ぞっとするくらい、誰かもわからないような冷たい声が、私の喉から呟き漏れる。
意味を悟ったときには、魔族の男は青白い炎で燃え上がっていた。わざわざ自分を燃やす焼夷爆弾を担いできたようなものだった。悲鳴をあげてのたうち転げ回るのはいい気味だった。
私は髪に手を当てて、小さな宝石の欠片が付いたヘアピンを抜き取る(つい笑みがこぼれてしまう)。それを叩きつけると、魔族の男は燃える肉片に切り刻まれて原型すらとどめなかった。
ほんの三秒だけ大笑いして、捨て置いた水晶で大切な彼を治癒して。それから声を上げて泣き出して、慰めてもらった。
8
私が自分で作った魔法石器・魔法石を、ひそかに低額で市場などで売るようになったのは、それからのことだ。名目上は「消費期限の近い、軍やレジスタンスからの放出品」で、私は変装して謎の女行商人に化けるのだから、嘘から出た真というやつなのかもしれない。
魔族と戦うのは二度目だったし、あんな事件を経験すれば、もう何もせずに手をこまねているわけにはいかない気持ちだったから。
「黒曜石と水晶とどっちが良い?」
私の水晶は、治癒の魔法を宿せるから、そういう意味でも需要はあるようだった。すぐに使ってしまう「医薬品の替わり」であれば効力を維持できる消費期限はあまり関係がない。
逆に、黒曜石は魔族やモンスターと戦うくらいにしか役にも立たず、間違えば人間同士での暴力にも使われかねない。けれども時によって「必要」であることもまた確かなのだった。
だから、私自身が限りある製造量の中で作る比率は常に考えたり迷ってしまう。たとえ素材に安物の宝石を使ったとしても、効果や有効な期間こそ伸びるとはいえ、定期的にパワー充填しないかぎりは数か月くらいしかもたない。だから、現実的な素材は黒曜石や水晶が主になるのは自然のなりゆきなのだった。
あの形見でもあるブルーサファイアは、彼に渡して、関係はできるだけ秘密にしてめったに会わないことにしている。危険を増やすようなことはしたくなかったし、お互いに色々と複雑だから。
「君には感謝してるし、すまないとも思う」
いくらなんでも、どれだけ好都合で好きでもある私相手であっても、悲劇で妻子を失って一ヶ月や数か月でホイホイと再婚やおおっぴらに新しい恋人を作るのは(心理的にも世間体からも)無理もあるだろう。
私だってそれくらいはわかるし、私自身だって彼の新妻さんや赤ちゃんのことは引きずっている。いくら自分に棚ぼただとしても、その代償が可愛かったあの子や悪くもない友人のいのだとしたら、正直全く笑えない。
「いつか、君が必要だと思ったら」
今はその言葉と関係だけで足りている。ときどき彼は私の魔法石を買って、必要としている人に届けてくれるブローカーにもなっている。
中空に吊り上げられて乳房をもてあそばれ、そんな悲痛と苦痛の中で、彼が四つんばいで吐血しているのがわかる。さっき蹴り飛ばされたことで、内臓までダメージを受けているらしい。
急がなければいけない。私が投げ捨てたままになっている水晶を使えば治癒して助かる。
勝算なら、全くないわけでもない。
なぜなら、私は全ての武器を失ったわけでないのだから。
(お前は馬鹿だよ、バーカ!)
涙を流して悲鳴を上げながら、私の頭の中で冷酷な思考の言葉がよぎる。
この魔族男が首飾りぶら下げているブルーサファイアは、元々は私が作者で魔法石に仕立てたもの。こんな近い距離だったらコントロールを奪えるし、揺れるうちに何度も私の裸の肌にぶつかっているんだからなおさらだ。
しかも、特定の宝石類は黒曜石や水晶と異なって複数用途に使えたり、パワーの充填も早くできる。そもそも、まだパワーが残っている。
「死んじゃえ、バカ」
ぞっとするくらい、誰かもわからないような冷たい声が、私の喉から呟き漏れる。
意味を悟ったときには、魔族の男は青白い炎で燃え上がっていた。わざわざ自分を燃やす焼夷爆弾を担いできたようなものだった。悲鳴をあげてのたうち転げ回るのはいい気味だった。
私は髪に手を当てて、小さな宝石の欠片が付いたヘアピンを抜き取る(つい笑みがこぼれてしまう)。それを叩きつけると、魔族の男は燃える肉片に切り刻まれて原型すらとどめなかった。
ほんの三秒だけ大笑いして、捨て置いた水晶で大切な彼を治癒して。それから声を上げて泣き出して、慰めてもらった。
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私が自分で作った魔法石器・魔法石を、ひそかに低額で市場などで売るようになったのは、それからのことだ。名目上は「消費期限の近い、軍やレジスタンスからの放出品」で、私は変装して謎の女行商人に化けるのだから、嘘から出た真というやつなのかもしれない。
魔族と戦うのは二度目だったし、あんな事件を経験すれば、もう何もせずに手をこまねているわけにはいかない気持ちだったから。
「黒曜石と水晶とどっちが良い?」
私の水晶は、治癒の魔法を宿せるから、そういう意味でも需要はあるようだった。すぐに使ってしまう「医薬品の替わり」であれば効力を維持できる消費期限はあまり関係がない。
逆に、黒曜石は魔族やモンスターと戦うくらいにしか役にも立たず、間違えば人間同士での暴力にも使われかねない。けれども時によって「必要」であることもまた確かなのだった。
だから、私自身が限りある製造量の中で作る比率は常に考えたり迷ってしまう。たとえ素材に安物の宝石を使ったとしても、効果や有効な期間こそ伸びるとはいえ、定期的にパワー充填しないかぎりは数か月くらいしかもたない。だから、現実的な素材は黒曜石や水晶が主になるのは自然のなりゆきなのだった。
あの形見でもあるブルーサファイアは、彼に渡して、関係はできるだけ秘密にしてめったに会わないことにしている。危険を増やすようなことはしたくなかったし、お互いに色々と複雑だから。
「君には感謝してるし、すまないとも思う」
いくらなんでも、どれだけ好都合で好きでもある私相手であっても、悲劇で妻子を失って一ヶ月や数か月でホイホイと再婚やおおっぴらに新しい恋人を作るのは(心理的にも世間体からも)無理もあるだろう。
私だってそれくらいはわかるし、私自身だって彼の新妻さんや赤ちゃんのことは引きずっている。いくら自分に棚ぼただとしても、その代償が可愛かったあの子や悪くもない友人のいのだとしたら、正直全く笑えない。
「いつか、君が必要だと思ったら」
今はその言葉と関係だけで足りている。ときどき彼は私の魔法石を買って、必要としている人に届けてくれるブローカーにもなっている。