へなちょこリリーの惚れ薬
次の瞬間、私たちは洞窟の外に出ていた。崖の上の神殿だ。
なにごともなかったかのように、湖の上を、鳥が旋回している。

「……ここも、もういらないわ」

黒百合の女神が振り向いて手をかざした。
神殿に風が吹いて、音を立てて崩れ落ちた。

「きゃあ!」

石の柱は崖から湖に落下し、数分後には神殿の跡形もなくなった。


「本当に……女神なんだわ彼女」
「……そうだね……」

怖いもの知らずのローズも、ようやく、黒百合の女神が自分たちが手を出してはいけない相手だと気づいたらしい。

「子供がふらふらしてたら危ないわ。村まで送ってあげる」


ふっと体が浮き上がり、私たちはローズの家の前にいた。


じゃあね、と立ち去ろうとする彼女に私たちはもう一度礼を言った。

「あなたは、これからどこへ?」
「私はどこでも眠れるわ。もし私の力が必要になったら……そうねえ。この村のすぐ南に小さな湖があるでしょう。そこに来て私を呼びなさい」


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