幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
「どうして? 本当のことじゃない。もしこのせいで客が減っても、あんたの自業自得でしょ?」

 腕を組み、横柄な態度で吐き捨てると、綾乃は困惑する私を見て鼻で笑った。

 私が早く叔父の家を出たいと思っていたのは、彼女に原因がある。

 引き取られてからずっと、綾乃は私にキツくあたっていた。

 思春期の多感な時期に預けられた手前、私のせいで両親からの愛情不足を感じているのではと思うと、なにを言われても自分が我慢すればいいと諦めていたときもあった。

 それでも、彼女の言動は自己中で我儘で、話し合っても分かり合えない。

 まともに相手にするよりも、距離をおくほうが得策だと思い至った。

 叔父の家を出てからは綾乃との関わりが無くなって、平穏に暮らせていたのに。

「愛未を引き取ってからうちの両親がどれだけ苦労したと思ってるの? 少しでも感謝の気持ちがあるなら、結婚くらい受け入れたらどうなのよ。どうせ付き合ってる人もいないんでしょ?」

 言い終えて、馬鹿にする目で私を見た綾乃は、お向かいの肉屋にコロッケを買いに来たお客様を目ざとく見つけた。

「そんな不誠実な店員がいる店で、花を買いたいとは思えないわ!」

 周囲に聞こえるようにわざとらしく声を張り上げる。

 演技がかったその行動にゾッとした私に、綾乃が近づき耳打ちをした。

「oliveだけじゃなく、この駅前商店街全体のイメージが下がったら悲しいでしょう? 小さい頃よく話してたもんね、お母さんとの思い出の場所だって」
「え……?」

 商店街全体のイメージを下げる……?

 綾乃の言葉を頭の中で反芻して、背筋が冷たくなった。

「ま、冷酷な人と結婚なんて全然幸せになれそうもないから私はごめんだけど、誠意を見せたら? oliveと駅前商店街の客足が減るような内容が拡散されたくなかったらね」

 震えそうになる体をなんとか力ませる私から離れると、綾乃はスマートフォンを目の高さで掲げた。

「あんたのせいでまた誰かが傷つくかもね」

 片頬をつり上げて笑いながら言い残し、綾乃がoliveから去っていく。

 その後ろ姿を、私はただ呆然と見つめ立ち尽くした。

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