幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
 そう思い詰める理由は、過去の出来事にあった。
 
 その苦い思い出は、中学生の頃、叔父に引き取られて転校して間もない頃だった。

 まだクラスで打ち解けられていない私を心配し、境遇を危惧して担任の先生が親身になってくれた。

 二十代の女の先生で、教師というよりみんなのお姉さんみたいな慕われる存在だった。

 新しい環境で気を配ってもらえるのはうれしいと感じていた矢先、荒唐無稽な噂が学校中に流れた。

 私が担任の先生と必要以上に親密で、テスト問題を事前に教えてもらっていたという内容だった。

 嘘を学校中に吹聴していたのは綾乃で、彼女はこのときも今回のようにはっきりと私に言った。

『私の場所を横取りしないでよ。パパに引き取ってもらったんだから感謝して少しは謙虚になりなさいよ!』

 綾乃は綺麗なお姉さんのような担任に憧れていて、自分だけが特に優遇されていると思っていた。

 自分には影響力があって、クラスのカリスマだと信じていたのだ。

 ところが私が登場したせいで、担任には目をかけてもらえなくなり、友だちもみな転校生という物珍しい存在に集まったのがおもしろくなかったらしい。

 噂により私はますますクラスで孤立し、転校してからの中学時代は楽しい思い出は皆無。

 担任はというと、テスト問題を事前に私に教えたというのは事実無根ながらも、学校を騒がせたという責任を取って担任を降りた。

 そして私たちが卒業するのと同時に、彼女は退職した。

 私のせいで立場が悪くなり、結果的に教職を辞したことが、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
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