幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
 コーヒーがふたつ運ばれてきて、カップに手をかけたときだった。

 バッグの中でスマートフォンが振動し、画面には織部店長からの着信と表示されている。

 私はなんだか胸騒ぎがした。

 職場から電話があったと話すと、コーヒーを飲んだ秀一郎さんは「どうぞ」と短く答えた。

 ペコリと頭を下げ、私は急いでロビーに向かう。

『ああ、愛未ちゃん? お休みのところ悪いんだけど』

 電話の向こうで織部店長は、困惑した声で続ける。

『今ネットからの注文をチェックしてたんたけど、装花の注文が大量にきててさ。なにか心当たりある?』
「え? 大量に、ですか?」
『うん。イベントに百件とかきてて、どれも同じアドレスからなんだよ。今確認のために返信してるんだけど、これってやっぱりイタズラだよね』
「イタズラ……?」

 私は頭が真っ白になった。

 このタイミングでそんなイタズラだなんて、ひょっとして綾乃が?

『無言電話とかもきてて、単に間違いなのかまだ判断がつかなくてね。愛未ちゃん、まさか俺がいない間にめちゃくちゃ大口のお客様と知り合いになったとかないよね?』

 織部店長はちょっと冗談っぽく言ったけれど、私は全然笑えなかった。

「い、いえ……」
『そっか、わかった。ごめんね、休みなのに電話して』
「そんな、大丈夫です」

 通話を終えた後、証拠はないけれど綾乃の嫌がらせなのではないかと思え、私はキュッと唇を噛み締めた。

 無言電話は、私が勤務しているときも何度かかかってきていた。

 織部店長に相談したら、きっと親身になって話を聞いてくれるだろう。

 けれども、お母様が大切にしていた店を守りたいと、気丈に営業を続ける彼に心配をかけたくなかった。
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