幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
 開始時刻である午後二時が差し迫り、場の緊張感が増してゆくなかで、私はふと疑問を抱いた。

 土壇場でお見合い相手が変更になった件を、先方はどうして受け入れたのだろう?と。

 どうせ結婚する気などないので釣書は見ていないのだけれど、相手は都内の大きな総合病院の次期院長だそうだ。

 叔父としてはなんとしても繋がりがほしかったようで、さすがに今日出席するのが綾乃から私に変更になったと先方にも報せているはず。

 それでも断られなかったのは、ひょっとしたら向こうも相手が代わったことに頓着しないほど、全然乗り気ではないのではないだろうか。

 形だけのお見合いで、最初から断ると決めているのかもしれない……。

 そのほうが私にとっては好都合だ。

 綾乃が今回のお見合いを拒否したのは、相手があまりにも冷酷だと有名だからだった。

 つい先月までアメリカの病院で脳神経外科医として勤務していたそうで、腕がいいと評判な医師らしい。

 けれども接する周りのスタッフや患者に対し、とにかく冷徹で高圧的なのだという。

 叔父が勤務する大学病院で受付として働く綾乃はその噂を聞きつけ、今回の縁談を断固拒否した。

 叔父はなんとか直前まで説得を試みたけれど、綾乃の気持ちは変わらなかったので、私に白羽の矢が立ったというわけだ。

 私には付き合っている彼氏などいないし、それになにより叔父夫婦に恩がある。

 中学一年生のとき両親が不慮の事故で亡くなり、それから養女として引き取られ、およそ五年間育ててもらい感謝している。

 だから今回は叔父夫婦へ恩返しの機会だと自分を納得させ、渋々参加を決めたのだった。
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