幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
「私は父から将来有望な医師に出会えるかもしれないから行ってみたら? って言われてね」

 あっけらかんと話す綾乃は、腕を組んで周囲をキョロキョロと見回した。

「招待状が無いから会場の中に入れなくても、ここにいたら素敵な出会いがあるかもしれないじゃない?」

 叔父が言い出したという非常識な作戦に、私はただただ驚いて言葉を失う。

 そんな私の心情など気にする様子もなく、綾乃の顔つきはパッと明るく変化した。

「ていうか、あんたの旦那もここの大学の医学部出身なんでしょ。私も身内なんだし同伴者ってことで会場に入れてよ」
「は?」

 厚かましい綾乃のお願いに、私は固まった。

 怒りを通り越してポカンと放心したとき、背後から足音が近づいてくる。

「愛未」

 秀一郎さんからかけられた声に、私はすぐさま振り向いた。

「はい」
「えっ……! き、桐谷秀一郎!?」

 私の返事をかき消すくらいの大声で言い、綾乃は目を見開いた。

 突然女性からフルネームで呼ばれた秀一郎さんは、いつものポーカーフェイスで私の隣に立つ。

「はい、そうですが」
「はじめまして! 私、日比谷綾乃と申します。愛未とは従姉妹にあたります」

 綾乃がいつもよりワンオクターブ高い声で自己紹介した。

 秀一郎さんを見つめる瞳が心なしか輝いているように見える。

「ああ、日比谷教授の」
「娘です! 偶然お会いするなんて驚きました」

 前のめりになった綾乃がまだ話したそうにしたとき、会場に入ろうとしている男性が秀一郎さんに片手を挙げた。

「すみません。ちょっと失礼します」

 秀一郎さんは綾乃に一礼すると、私に軽く目配せをして去っていった。

 片手を挙げた男性と話しながら会場内に入るのを見計らって、綾乃は怒りに満ちた表情でこちらに詰め寄る。

「ちょっと! 桐谷秀一郎があんなに美形だなんて聞いてないんだけど!」

 周囲も気にせず憤りの声を上げられ、私は呆気にとられた。

「性格が冷酷なのは絶対嫌だと思ったけど、あれほど端正な容貌なら我慢できそうよね」

 綾乃は憎々しげに舌打ちをして、私を睨みつける。

「なんで愛未が結婚したのよ。狡いわ」

 理不尽すぎて声も出なかった。

 狡いだなんて……。
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