幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
 もとはといえば綾乃が拒否したから私が代わりにお見合いしたのに、怒りを向けられるなど筋違いではないだろうか。

 そのうえ、脅迫めいた行動を取った自分を棚に上げ、私を責めるなんて馬鹿げている。

 真っ当な意見だと思うけれど、綾乃を刺激すると騒ぎになって秀一郎さんに迷惑をかけるかもしれない。

 そう思い、言葉をグッと飲み込んだときだった。

 ガシャン!という大きな音とともに、会場の入り口に飾ってあったスタンド花に走っていた男の子がぶつかった。

「あっ!」

 とっさに駆け寄ろうとした矢先、スタンド花が転んだ男の子の上に落ちそうになり、私は息を止めた。

 危ない、下敷きになる……!

 身が縮む思いで走ると、私より先に助けに駆けつけた人物が、寸でのところで衝突を回避した。

「大丈夫か?」

 グラグラ揺れているスタンド花を倒れる前に手で制止したのは、息を切らすことなく男の子にそう聞いた秀一郎さんだった。

 男の子はキョトンとしていたけれど、すぐに周りから注目を浴びていると気づきワーッと泣き出した。

「すみません!」

 男の子の母親らしき女性が慌ててやって来て、抱き上げる。

 秀一郎さんは母親に抱かれて泣きやんだ男の子の足や頭を確認した。

「目立った傷はないですね。頭部を打ったりもしていなかったようです」
「すみません、ありがとうございます……」

 母親はしきりに秀一郎さんに頭を下げていた。

 一部始終をつぶさに見ていた私は、ホッとして息を吐く。

 男の子に大きな怪我がなくてよかった……。

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