幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
 安堵して肩を脱力させると、まるでタイムスリップをしたかのように中学時代を思い出した。

 私が一年生のときの体育祭で、リレーで転んで怪我をしたとき、秀一郎さんがすぐさま駆けつけてくれた。

 保健委員長の秀一郎さんが、負傷者を介抱するのは委員会の仕事のうちだったとわかっている。

 けれども、心配そうに顔を覗き込まれたり、保健室まで肩を貸してもらったりされ、私は高揚した。

 さらにその間、両膝から流血する私を安心させる笑顔を見せてくれた。

 私は秀一郎さんに体の半分を委ねて歩きながら、初めての感情に戸惑った。

 親同士が友だちで、幼い頃から年に数回だけど会えば優しくしてくれるお兄ちゃんみたいな彼を、初めて男性として意識した。

 家族のような存在ではなく胸がときめく体験をして、たぶんあのとき、秀一郎さんに恋に落ちたのだと思う。

 そのときの秀一郎さんが、ヒーローみたいでものすごくカッコよかったから。

「懐かしいな……」

 小さくひとりごち、私は秀一郎さんに歩み寄る。

「あのお子さんが無事でよかったですね」

 話しかけると、スタンドを立て直した秀一郎さんは「ああ」とうなずいた。

 私は床に落ちた花を拾い、見様見真似で活け直す。

 華やかな赤とピンクで統一されたスタンド花は、オリエンタルリリーをメインにバラやダリア、アレカヤシの葉ものでセンスよく活けられていた。

 実はこの会場に入るときから、たくさん置かれてあるスタンド花すべてが素敵だと思い、ひとつひとつ目に焼き付けていた。

 だからこの可愛らしいスタンド花も、倒れる前がどんなふうだったか、思い出しながら直してゆく。

 秀一郎さんにそばで見られているので、お待たせして悪いと気持ちが焦るなか、なんとか元通りまでとはいかないが活け終えた。
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