幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
「わあ、直してくださってどうもありがとうございます!」

 会場のスタッフに感謝され、私は恐縮する。

「いえ、とんでもないです」
「ほんと、愛未はお花のセンスがありますよね!」

 どこからともなく登場し、生き生きと秀一郎さんに話しかけた綾乃に、私は心底驚いた。

 素敵だなんて、絶対に思ってもいないだろう。

 心にもないことを言って、秀一郎さんの興味を引きたい魂胆が見え見えだ。

「私も学生時代から華道を習っておりますの。花を活けるのは得意なんですよ。賞をもらったこともあって」

 自慢げに言う綾乃に、秀一郎さんは「そうですか」とひと言返した。

「うちにもいつも季節の花がたくさん飾られていて、よく愛未が働いている花屋でも買ってるんです」

 oliveで花なんて買ったことないのに……。

 平気で嘘を吐きながら、綾乃は秀一郎さんの隣にピタッと寄り添ったので、私はギョッとする。

「もしよかったら、今度うちにも遊びにいらしてください。せっかくお近づきになれたんですし!」

 甘えた声で言いながら腕に触れようとした綾乃の手を、秀一郎さんはそれとなく交わした。

「大学時代にお世話になった先生がお帰りのようだから、見送ってくる」
「は、はい」

 平淡な調子で私に言い、秀一郎さんは綾乃と距離を取る。

「では、失礼します」

 素早く身を翻して会場内に入ってゆく秀一郎さんを見送ると、綾乃は不気味な笑顔で私の前に立ちはだかった。

「ねえ、今からでもやり直しましょうよ」

 好戦的な物言いに、私は身構える。

「……やり直す?」
「ええ。だってあんなヒーローみたいなシーンを見せられたら、誰だって好きになっちゃうわ」

 綾乃は当然のように言って、頬を膨らませた。

 好きになっちゃうって……秀一郎さんのことを?

 たしかにさっき、男の子を助けたときはヒーローみたいだったけど……。

 冗談ともつかない綾乃の言葉に、私は眉をひそめる。
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