幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
「彼が結婚したとさっき聞いて、うれしくなってね。思わず話しかけてしまいました」
言いながら松島さんが会場内に目をやったので、つられて私もそちらを見た。
秀一郎さんが年配の男性たちと親密そうに話している。さっき言っていた、お帰りになる先生だろうか。
「桐谷くんは手術実績から見ても本当に立派な脳神経外科医です。ですが彼は、家でも仕事一辺倒なのでは?」
「へ?」
突然質問され、私は一瞬キョトンとする。
「そうですね、家でもほとんど仕事をしています」
「やっぱり……」
松島さんは腕を組み、ため息を吐いた。
「アメリカで辛い思いもしたようです。だから彼は、患者を救うために努力を惜しまない」
家庭内でほとんど会話がないので、秀一郎さんのことはなにひとつわからない。
だから私は松島さんに身を乗り出してうかがった。
「アメリカで、ですか?」
「ええ。それに、医者は常に冷静でなければなりません。患者の前では感情を抑えますからね。桐谷くんは感情に左右されず、とにかく患者を救うことだけを考えている」
松島さんの言葉に私はうなずいた。
ひょっとしたら、秀一郎さんの性格が中学時代から一変したのは、そのアメリカ時代の出来事にあるのでは、と予測する。
「けれど、それでは患者や患者の家族とのコミュニケーションが希薄になってしまうし、大学時代の彼のようにもっと人間味があったほうが魅力的だったと思うんです」
「そうなんですか……」