幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
 大学時代はきっと医師を志す優しくて明るい人柄だったのだろう。

 その頃の秀一郎さんにも会ってみたかったな……。

 彼が冷酷な人間になったのは、仕事に真摯に向き合ってきたからこそなのかもしれない。

 そう思いいたったとき、松島さんが私を真っ直ぐに見て、ふわりと微笑んだ。

「それで、あなたと結婚して、あなたという伴侶ができたことで、彼がよい方向に変わるかもしれないなと思ったらうれしくなりました」
「え……?」

 間を置いて、私は目を丸くする。

「毎日患者のためを思って押し殺している感情をあなたに打ち明けることで、患者とも感情のやり取りができるようになるんじゃないかな。コミュニケーションが円滑になれば医者としてもっと向上する。そうなれば彼は、国内でも指折りの医師になると俺は信じてます」

 松島さんは心から喜んでいる様子で、こんなふうに考えてくれる友人がいる秀一郎さんは、幸せだろうと思った。

 けれども、愛のない結婚をした私には、松島さんが期待する妻としての立場をこなせるだろうか。

「私は、秀一郎さんのためになにをすればいいのでしょうか」
「毎日話を聞いてあげたらいいと思います。どんな些細なことでもいいので」

 やわらかい笑顔で教えてくれた松島さんに対し、私は曖昧に微笑んだ。

 同居していてもすれ違うばかりで、秀一郎さんとほとんど会話もない私にそんなことができるのか、自信がなかった。
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