幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
3 本物の家族になりたくて
 庭に植え付けたカラフルな百日草がとても綺麗な、六月終わりの休日。

 休みのうちに重い食材や日用品を買い込んでおこう、と意気込んで玄関に向かったときだった。

 ガチャッと二階の書斎のドアが開く音が聞こえた。

 ちょうど階段を下りてきた秀一郎さんと廊下で出くわし、私は足を止める。

「買い物に行ってきますね」
「どこに行く予定?」

 軽く報告してすれ違い、そのまま玄関で靴を履こうとした私は、驚いて動きを止めた。

 まさか秀一郎さんから質問されるだなんて、想定していなかったからだ。

「えっと、いつも行ってる近くのスーパーです。食材とかいろいろ買いに……」

 動揺した私は、聞かれていない内容も話してしまった。

 結婚し、同居を始めて約ニヶ月。

 今まで私が休日にどこへ行こうが一切関心がなさげだったので、なぜ聞かれたのかすごく気になってしまう。

 すると、スタスタと私のそばまで来た秀一郎さんが、私より先に靴を履いた。

「車を出そう」
「へ?」

 至近距離で見つめ合い、私は間抜けな声を出す。

 く、車……?

「こないだ同窓会に付き合ってくれた礼だ」
「え? あ、ああ」

 ポカンとしていた私は、ようやく意味がわかって何度か小刻みにうなずいた。

 お礼とか考えてくれるんだ……。意外と律儀な人なんだ。

 見返りがほしくて同伴したわけではないけれど、秀一郎さんの気持ちがうれしかった。

「それじゃあ、お願いします」

 私はペコリと頭を下げる。

 ふたりでマンションの駐車場へ行き、秀一郎さんの愛車であるドイツ製の高級車に乗り込んだ。

 真っ黒なボディは艶々と輝き、助手席の座り心地は高級感に溢れている。

 なによりも、隣でハンドルを握る秀一郎さんを見られるのがすごくレアで、心が浮上した。

 慣れた手つきで姿勢よく運転する姿は、ずっと目に焼き付けておきたいほどカッコよかった。

 見つめているのがバレないようにチラ見していると、すぐに近所のスーパーに到着した。
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