幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
「失礼いたします」

 ドアの向こうから声が聞こえ、私たち三人はすっくと立ち上がった。

「お待たせして申し訳ありません」

 個室に入ってきた相手方に頭を下げる。

「いえいえ! とんでもないです、桐谷(きりたに)さん」

 叔父が慌てて言い返し、私はゆっくりと目を見開いた。

 桐谷って……。桐谷総合病院?

 聞き覚えがある名字にハッとして、一瞬時間が止まったのかと錯覚する。

「せっかくこのような素晴らしいご縁をいただきましたのに、今回養女の愛未に代わるという事態となり、誠に申し訳ありません」

 叔父と叔母が深々と頭を下げている。

 その真ん中でうつむいている私は、チラリと上目遣いで相手方を見た。

 正面に立っているのは黒いスーツ姿の背の高い男性と、ベージュのスーツを着用した年輩の女性だ。

 会うのはおよそ十七年振りだけれど、整った面立ちと知性的で凛としたオーラは変わっていなかったので、私はすぐに確信する。

 小さい頃から家族ぐるみの付き合いがあった、桐谷秀一郎(しゅういちろう)さんだ。

 ご実家が総合病院なので医師になったのだろうとは思っていたけれど、まさか冷酷だなんて噂を立てられて、そしてこうして代役のお見合いで再会するなんて……。

 懐かしさと驚きで、心臓が早鐘を打つ。

「愛未ちゃん、お久しぶりですね」

 秀一郎さんの隣でほがらかに私に微笑みかけたのは、秀一郎さんのお母様。お父様らいらっしゃらないようだ。

「は、はい。お久しぶりです」

 緊張で声が震え、笑顔がぎこちなくなってしまった。

 お母様は昔からとても優しくて、両親が健在だった頃によく一緒に食事をし、穏やかに話かけてくれた姿を思い出す。

 最後にお会いしたのは私が叔父に引き取られ引っ越す際、お母様がお見送りに来てくださったとき。

「あの、秀一郎さんも……」

 言いかけて正面から真っ直ぐに見つめると、その容貌の美麗さに私は思わず息を呑んだ。
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