幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
高級住宅街にあるスーパーは、新鮮でオーガニックな食料品を数多く取り揃えている。
初めて訪れたときは、古き良き駅前商店街との品揃えの違いに戸惑った。
けれども、今では海外の野菜や調味料を見るのが楽しみになっている。
「あの、多くなってもいいですか?」
いつもひとりで買い物しているから、隣に秀一郎さんがいるのがなんだか新鮮で落ち着かない。
「ああ。車なんだし、量は気にせずたくさん買えばいい」
買い物籠を載せたカートを押してくれている秀一郎さんがサラリと言う。
「はい、ありがとうございます」
買おうと思っていたお米のほかに、醤油や油、それからトイレットペーパーも少なくなっていたな……。
頭の中で家中の在庫を確認しながら歩いていると、私は普段なら絶対に有り得ない状況に気づいた。
それは、周りの買い物客たちから、ものすごく注目を浴びているということ。
秀一郎さんは休日の今日、グレーのラフなシャツに黒い細身のパンツを合わせている。
そんなシンプルな装いなのに様になっていて、雑誌で見るモデルやテレビに映る俳優よりも何倍もカッコいい。
だから視線を集めるのは致し方ない。
しかし隣にいる私は、一体どんな関係だと思われているのだろう。
つり合わない夫婦だな、とか……?
そんな自虐っぽい考えに陥っていたとき。
「きゃーっ!」
近くから悲鳴が聞こえ、私は反射的に足を止めた。
キョロキョロと周りを見回すと、後ろの野菜売り場で買い物中と思われる高齢男性が床に倒れていた。
悲鳴の主は、おそらく隣でオロオロしている高齢女性だと思われる。
私が立ち尽くす間に即座にカートを手放した秀一郎さんが、ふたりのもとに駆け寄った。
跪き、床に倒れる高齢男性の息と脈を手際よく確認する。
「心肺停止している。すぐに救急車を」
秀一郎さんに指示をされた高齢女性は、口もとに手をあてて絶句した。