幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
「私が呼びます」

 そばに走り寄った私はすぐにスマホで消防に通報する。

 その間、秀一郎さんは心臓マッサージを続けた。

 辺りは騒然とし、私たちは休日の大勢の買い物客に取り囲まれている。

 私は高齢女性に寄り添い、今か今かと救急車を待った。

 汗だくになって何度も胸骨を圧迫し、心肺蘇生を繰り返す秀一郎さんを見守る。

 高齢女性は不安で泣き出しそうだった。

 スーパーのスタッフがAEDを運んで来たので、秀一郎さんがシールを貼る。

 けれどもそのとき、倒れていた高齢男性の頸動脈が微動した。

「意識を取り戻したようだ」

 わずかながら自発呼吸も回復している。秀一郎さんは高齢男性の体を横向きにした。

 私たちはみな安堵した。AEDもショックは必要ないと判断し、音声で案内される。

 秀一郎さんが倒れた高齢男性に声をかけ続けていると、救急隊員が駆けつけたので彼らに引き継いだ。

「ありがとうございました……! 私ひとりではなにもできませんでした。本当に、本当に感謝しています」

 救急車に同乗するまで、高齢女性は秀一郎さんに何度も何度も頭を下げた。

「いえ、どうかお気になさらないでください」

 ホッとした様子でそう答える秀一郎さんを、私は心から尊敬した。

 人の命を救うという仕事はどれほど尊く重要で素晴らしいか、もちろん頭ではわかっていたけれど、目の前で見た経験は大きかった。

 秀一郎さんの使命感に満ちた行動力は、目を瞠るものがあった。

 迷いがなく、とても心強かった。

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