幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
 食べてくれるかわからないけれど、ひとり用の土鍋でおかゆを煮込む。

 出来上がると常備していた風邪薬や解熱剤と一緒にお盆に乗せ、私は再び階段を上り書斎のドアをノックした。

 秀一郎さん、寝てるかな……。

「ごめんなさい、お休みになってますか?」

 返事がないので言いながらドアを開ける。

 すると予想に反し、デスクに向かいタブレットを凝視している秀一郎さんが目に入ったので、私はたちまちギョッとした。

「お、起きていて大丈夫なのですか?」
「ああ」

 秀一郎さんは両手にお盆を持つ私を一瞥したけれど、すぐにタブレットに視線を戻した。

 先ほど階段も上れないほど体調が悪そうだった人と、同一人物だとは思えない。

「お仕事ですか?」
「病院からCTやMRIの画像が送られてくるんだ。画像を見て症状を聞けばいつでも指示が出せるから」

 いつも見ているタブレットはそういう仕組みだったのか……。技術の進歩ってすごい。

 って、感心している場合ではない。

「それでしたら秀一郎さんは、いつお休みになっているのですか?」

 家にいるとき、いつも肌身離さずタブレットを持っている。

 常に病院から連絡がきてもいいように、きたら判断できるように。

 それは患者や、病院スタッフにとっては大変心強いかもしれない。

 だけど秀一郎さんは常に気を張り、いつでも対応できる状態にいるのだ。

「そこまで気負わなくても……」

 ポツリとつぶやいた私を、秀一郎さんはため息を吐いて見上げる。

「なにも知らないくせに気軽に言うな」

 静けさに憤りが含まれた声で言われ、秀一郎さんの気迫に身震いがした。

「ごめんなさい、軽率な発言でした」

 私は頭を下げて素直に謝る。

 けれども、今どうしても伝えたくて、お盆を握る両手にグッと力を込めた。

「ですが、秀一郎さんの仕事への熱意を、私はとても強く感じています。同窓会で男の子が転んだときも、先日スーパーでご老人が倒れたときも、真っ先に駆け寄っていましたよね」

 人を助けたいという思いが強く伝わってきて、私は心から尊敬した。

 あのとき、秀一郎さんの行動がとても心強く感じたし、中学時代の優しさを思い出したんだ。
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