幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
「私も中学時代、秀一郎さんに助けられたんですよ。って、秀一郎さんは覚えていないかもしれないですね」

 心ばかり微笑むと、秀一郎さんの眉が微動した。

「すごく優しくて、そのときから私は……」

 言いかけてハッとし、手を口もとにあてる。

 危ない……!

 今、感極まって余計なことを喋ってしまうところだった。

「とっ、とにかくこれからは、たとえ愛はなくても、辛いときは頼ってほしいです。なんでもいいので話してほしいです!」

 早口でまくし立てると、強引にお盆をデスクの上に置いた。

 そして回れ右をしてスタスタ歩き、ドアを開けると書斎を出る。

「ごめんなさい、体調が悪いのに。ゆっくり休んでくださいね」

 廊下に出て、ドアを完全に閉める直前。

「いや……。運んでくれて、ありがとう」

 ようやく耳に届くほどの小さな声が聞こえた。

 なんだか胸がいっぱいになって、階段を下りる。

『毎日話を聞いてあげたらいいと思います。どんな些細なことでもいいので』

 同窓会で松島さんから言われた言葉が、頭の中に優しく響いた。

『それで、あなたと結婚して、あなたという伴侶ができたことで、彼がよい方向に変わるかもしれないなと思ったらうれしくなりました』

 そうなりたいと、心から強く願った。

 患者を救うために日夜努力している秀一郎さんを支えたい。

 秀一郎さんが万全の状態で仕事に臨めるよう、少しでも役に立ちたかった。



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