幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
 そんな私の密かな思いが伝わったのか、その日を境に秀一郎さんはなるべく家で夕飯を食べてくれるようになった。

 帰宅時間は相変わらず遅いけれど、病院に泊まり込む日は以前より少ない。

 私はうれしくて、秀一郎さんの好きな和食、特に魚料理の本を買い、レパートリーを増やした。

 食事中は今日あった出来事や食材の話をするし、秀一郎さんは食後の洗い物を率先してやってくれる。

 まだ私が話している時間の方が長いけれど、結婚当初の状態を思い返すと、だいぶ打ち解けてくれたと思う。

 それに、これまでの仕事一辺倒な生活を少し改善し、心が休まる時間ができたかなと思うと、食事の時間がとても貴重に感じた。



 七月も中旬に差し掛かり、同居し始めた頃に植えたサルビアの葉がどんどん大きくなり始めた頃。

「え! こ、骨折!?」

 自室で電話を受けた私は、思わず大声で復唱した。

 oliveは定休日の日曜で、そろそろ夕飯の準備をしようと思っていた矢先。

『そうなんだ。実家で葡萄棚の修理をしていたら梯子から落ちちゃって。くるぶしが折れたみたいで』

 電話の向こうで弱った声で話す織部店長は、はあっと重いため息を吐く。

『ごめんね、愛未ちゃん。大変かもしれないけど、olive任せられるかな?』
「もちろんです! oliveのことは心配しないでください。それよりも織部店長、怪我の方は大丈夫なのですか?」
『ありがとう。実はちょっと手術が必要みたいで、入院してるんだよ。歩けるようになるまで、一ヶ月はかかるって』
「えっ、そうなんですか……」

 織部店長の声は憔悴しきっていて、すごく心配になった。

 入院先の病院を聞き、今後のoliveのことを話し合ってから電話を切った。
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