幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
 お客様には申し訳ないけれど、予約と配達は私ひとりで対応できる範囲に限定することにした。

 市場への仕入れなど慣れない仕事が増える分、閉店時間を早くしていいと許可が出た。

 だけどなるべく、駅前商店街に買い物に来る常連のお客様には不自由させないよう、店頭販売もしっかりやっていきたい。

 私ひとりで大丈夫かな……。

 不安が拭えないまま翌日になり、oliveは臨時休業にして私は織部店長のお見舞いにうかがった。

 織部店長が入院したのは、叔父が教授を務める大学病院。

 ここは綾乃が受付で働いているので、なるべく会いたくない私は見つからないように入院棟へ行く。

 整形外科のナースステーションで織部店長の病室を聞こうと、中にいる看護師に近づいたとき。

「愛未?」

 背後から届いた聞き慣れた声に、私は反射的に両目を閉じた。

 この現実から逃れたくて、天を仰ぐ。

「あ、綾乃……」

 振り向くまでもなく声の主を察した私は、観念してつぶやいた。

 制服姿の綾乃は書類を手にしている。おそらくなにか用があってこの整形外科のナースステーションを訪れていたようだ。

 自分のタイミングの悪さを呪いたい。

「どうしたの? こんなところで。ていうかそれ、もしかしてお見舞いのお花?」

 綾乃が注目したのは、私が持っているオレンジ色のガーベラだった。

 ガーベラは織部店長が好きな花のひとつだ。

 それに太陽のようなオレンジ色は心を明るくしてくれるし、早く元気になってほしいという願いを込めてoliveから持参した。

「生憎、うちは生花の持ち込みは禁止ですよ」

 綾乃は両腕を組むと、わざとらしく片眉をつり上げた。

「これ、プリザーブドフラワーです。生花を加工しています」

 私はなるべく落ち着いた声で説明した。

 プリザーブドフラワーは専用の液を用いて加工していて、生花とそっくりにもかかわらず、長くて二年はそのままの美しさを楽しめる。

 初めて見れば、本物の生花と間違える人もいるだろう。
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