幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
 黒髪はサラリとした前髪を少し後ろに流す自然なセットで、美しいアーモンド型の瞳と形が綺麗な高い鼻梁の端正な顔立ち。

 手足が長く、細身のスーツのシルエットも目を瞠るものがある。

 秀一郎さんとは小学校は別だったけれど、中学校が一緒だった。

 二学年差は中学生にとって計り知れないほど大きいうえに当時からおとなびていて、その人気は校内に留まらず他校の生徒にもファンがいるくらいすごかった。

 私も例に漏れず、憧れていたうちのひとり。

 外見が整っているばかりではなく、中身もとっても素敵だった。

 優しくて穏やかで、誰からも好かれていた。

 けれども。

「……ああ」

 私を一瞥した秀一郎さんは短く発し、すぐに目をそらした。

 ムスッと唇を結び、私のことなどまるで興味がないと表明しているかのような態度を見せる。

 私は目を丸くした。

 このお見合いが彼にとって不本意であると、ありありと伝わってくる。

「いやあ、秀一郎くんと愛未が幼なじみだったとは! 兄とお父様が学友だったと失念しており、大変失礼いたしました」

 私たちのやり取りを見た叔父が、場を取り繕うように明るい声で話した。

 父は国立大学の医学部を卒業後、医師ではなく医療品メーカーの研究職を就職先として選び、研究に明け暮れた。

 秀一郎さんのお父様とは大学の同期で仲がよく、卒業後も家族ぐるみで年に数回食事をする仲だった。

「秀一郎くんはアメリカの病院で脳神経外科医として本当に優秀だったと聞いていますよ」
「恐縮です」
「お父様もさぞお喜びでしょう。桐谷総合病院はいずれ、国内トップの脳神経外科がいると有名になること間違いなしです!」
「……ええ」
「いや、もはやそうだと言っても過言ではないですよ」
「はあ」

 叔父と秀一郎さんの会話は一切合切こんな調子で、叔父の一方通行だった。
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