幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
「プリザーブドフラワーは、持ち込み禁止ですか?」

 私は綾乃ではなく、整形外科のナースステーションにいた看護師に聞いた。

「大丈夫ですよ」

 看護師はニコリと答えてくれた。

 生前父から、病気によっては生花から細菌が感染する恐れがあるため、お見舞いにはなるべく控えるようにと言われていた。

 綾乃はあからさまにムッとした表情になり、無言で立ち去った。

 気色ばむ彼女を看護師は不思議そうに見送る。

 綾乃は自分が恥をかかせられたと感じておもしろくないのだと思う。

 看護師から織部店長の病室の場所を聞き、私は気を取り直してそちらに向かった。

「失礼します」

 ノックして入室する。

 四人部屋の入り口を入ってすぐのベッドの織部店長は、カーテンを開け放していたためすぐに私に気づいた。

「愛未ちゃん、来てくれたんだ」
「はい。織部店長、大丈夫ですか?」
「うん、平気平気」

 顔色はあまりよくないけれど、織部店長は笑顔で声色は明るい。

「これ、お見舞いに持ってきました。早くよくなるといいですね」

 オレンジ色のガーベラを、消灯台の上に置く。

「ありがとう。ここからは窓の外も見えないから、緑や花が恋しくなっているところだよ。綺麗だね」

 織部店長は目を細め、華やかで美しい花を眺めた。

 それから織部店長が不在の期間、私ひとりでoliveを切り盛りしていく件を話し合った。

 仕入れは同行した経験が何度もあるのでなんとかなりそうだし、配達の間店番がいなくなるけれど駅前商店街の方たちがきっとお客様に事情を話してくれるだろう。

 注文や配達は私ひとりでできる範囲でいいと言ってくれたので、気負わずに丁寧に対応していこうと思う。

「あ、そうそう。引き出しの鍵も渡しておくね」
 
 注文票は住所や電話番号が記された個人情報なので、事務所内の鍵のかかった引き出しの中に保管していた。

 普段は織部店長が管理している。

「そうだ。パーカーのポケットの中に……」

 言いながら織部店長が体勢を変え、ベッドから立ち上がろうとしたので私はギョッとした。

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