幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
「う、動かない方がいいんじゃ」
「大丈夫大丈夫、折ったのはくるぶしだから歩けることは歩けるんだ。まあちょっとは痛いけどね」

 苦笑した織部店長は、床に足を付け顔をしかめる。

 それでもなお、ベッドから三歩分ほど離れたロッカーに向かおうとして、体を震えさせながら足に力を入れた。

「パーカーは私が取りますから」

 言うやいなや、「おわっ!」案の定、織部店長はバランスを崩す。

 私はとっさに体を支え、なんとか転倒を免れた織部店長をゆっくりとベッドに座らせた。

「ごめん、支えてもらって助かった」
「いえ、大丈夫ですか? 痛みますか?」

 織部店長はかぶりを振り、うなだれた。

「oliveの件も全部愛未ちゃんに頼んでばかりだから、申し訳なくて……。せめて自分が出来ることは自分でやろうとしたんだけど」

 平気な振りをして私には元気な姿を見せているけれど、本当はoliveも心配だしかなり憔悴しているのだろう。

「困ったときはお互い様ですから、こういうときは私にできることがあればどんどん頼ってください」

 私はなんとか安心してほしくて、ニコリと織部店長の顔を覗き込む。

「留守は任せてくださいね。それから、どうかさっきみたいな無理はもうしないで、しっかり治してくださいね」
「ありがとう……。愛未ちゃんがいてくれてよかった。oliveを頼むね」

 織部店長が大切に思っているoliveは、私にとってもかけがえのない場所だ。

「はい!」

 大きくうなずくと、織部店長は目を細め、ようやく少しは安堵してくれたのかやわらかく微笑んだ。

 大学病院を後にした私は真っ直ぐにoliveに向かう。

 事務仕事と明日からのひとり営業に備えて仕入れや注文票の確認、丁寧に花の手入れと掃除をこなした。
< 41 / 83 >

この作品をシェア

pagetop