幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
 夕食後、私は自室にこもっていた。

 すると不意に部屋のドアがノックされ、私は作業の手を止める。

 秀一郎さん……!?

「は、はい!」

 どうしたのだろう?

 わざわざ部屋に来るなんて初めてだったので、私は不思議に思ってドアを開けた。

 するとお風呂上がりと思われる秀一郎さんの麗しい顔面が視界いっぱいに広がり、私は思わず息を呑む。

「いつもの風呂の時間に下りてこないから、倒れてるかと思った」
「へ?」

 私は目をぱちくりさせた。

 部屋に置いてある目覚まし時計を確認すると、午後十時を回っている。

 作業に熱中しすぎて時間が経つのを忘れていた。

「すみません、ご心配をおかけして」

 頭を下げると真正面から見つめられ、トクンと鼓動が響く。

「ひとりで店をやるのは大変だろう。家のことは無理しなくていい」
「いえ、それは全然大丈夫で……」

 私が慌てて手を左右にパタパタ振ると、秀一郎さんは部屋の中へ目線を移した。

「持ち帰りの仕事?」

 言いながら、秀一郎さんはテーブルの上に置かれた制作途中のプリザーブドフラワーを指差す。

「あ、あれは仕事のものではなくて。織部店長へのお見舞いに持っていくために自分で作ってみようかと」

 今回は売り物ではなく、自分で加工に挑戦している。

 エタノールに一日浸し、グリセリンと水で脱色、着色し、乾燥させる。

 それを口の広い瓶の中に入れ、織部店長に渡すつもりだ。

「プリザーブドフラワー?」

 秀一郎さんに聞き返され、私はコクリとうなずいた。
 
「はい、生花を加工しているんです。大学病院では生花の持ち込みが禁止なので。実際に綾乃からも注意されて……」

 彼女の名前を出すと、自然と顔が険しくなる。

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