幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
 大切にしてもらえて、とってもうれしいのだけれど……。

 瓶詰めされたミニひまわりを見るたびに、私はどうしても秀一郎さんの言葉が思い出された。

『今の愛未の家族は、俺だろ?』

 この一週間、私は秀一郎さんに少しでも接近するだけで過敏に反応するほど完全に意識している。

 脈拍が速くなって、心音が大きくなって、胸が苦しくなるのだ。

 愛はないけれど夫婦関係ではあるのだから、きっと秀一郎さんの言葉に深い意味はないだろう。

 そう頭ではわかっているのに、真っ直ぐにこちらを見つめる秀一郎さんの瞳が忘れられない。

 ひょっとしたら秀一郎さんも私を少しでも意識してくれていて、これから本物の夫婦に近づいていけるんじゃないか……という淡い期待を抱いてしまう。

 仕事を終えて帰宅後、夕飯のシーフードカレーを食べ、秀一郎さんと一緒に洗い物を済ませた。

 シャワーを浴びてリビングに戻ると、先に浴びた秀一郎さんがゆったりとソファに座り、なにやら難しそうな英字の本を読んでいる。

 今夜は比較的涼しいので、窓は網戸にして開け放たれており、乾いた夜風が心地いい。

 引っ越してきてすぐの頃は、秀一郎さんが共有スペースで長く過ごすのは珍しかった。

 けれども夕飯をともにし始めたあたりから、こうしてリビングでくつろぐ姿が見られるようになった。

 テーブルの上に置かれたグラスの中の氷が溶けて、カランと涼しげな音を立てる。

「あの……」

 ソファの横に立って話しかけると、秀一郎さんは手もとの本から目を離して私を見上げた。

「これからはもう少し早く帰れそうです。織部店長が無事に退院したので」
「それはよかった」

 短く言い、秀一郎さんはパタリと本を閉じる。

 ソワソワする私は堪らず深呼吸をした。

「それから、こないだ織部店長を家族みたいな特別な存在だと話したんですけど、」
「座ったら?」

 本をテーブルの上に置き、リラックスした体勢で足を組むと、秀一郎さんはソファをポンと叩いた。

「え! は、はいっ」

 私は隣でちょこんと腰を下ろす。
< 47 / 83 >

この作品をシェア

pagetop