幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
 話を聞き、時折お母様も会話に参加する。

 けれども必死に話を盛り上げようとする叔父とは対照的に、不機嫌そうな秀一郎さんは相槌すら面倒そうだ。

 感情の起伏がないため、整った顔立ちが余計際立ち、まるで精巧な作り物さながらの現実離れした美しさがあった。

 「あとはふたりでお話でも」とお母様に言われたとき、秀一郎さんと目が合って私はビクッと肩を揺らした。

 お話なんて、できるだろうか……。

 お母様に促されてレストランを出て、秀一郎さんとふたりでホテルの中庭にやって来た。

 咲き誇る桜の花がとても綺麗。

「あの、久しぶりにお会いできてうれしいです」

 一歩分前に立つ秀一郎さんに勇気を振り絞って伝えたけれど、軽く無視された。

 すごく恥ずかしくてうつむくと同時に、綾乃が言っていたことは正しかったと認めざるをえないと思った。

 歳を重ねて大人になれば、誰だって落ち着きはするだろう。

 しかし彼の変貌ぶりは、成長という一言では説明がつかない。

 あの頃は優しかったのに、どうして……。
 
 困惑を隠しきれず足を止めたとき、秀一郎さんが振り向いた。

「きみの叔父さんがどうしてもと言うから設けた席だが、直前で相手が変更になるとはずいぶん杜撰だな」

 言いながら睨まれて、私は身を固くする。

 あまりの美しさと怖さに、私は萎縮した。

「結婚する気がないなら早く手を引け。迷惑だ」

 きっぱりと言い切られ、軽く放心した。

「め、迷惑……?」

 気の抜けた声で復唱する。

 たしかにお見合いは結婚する気がある者同士が出会う場だ。

 それなのに今回の私のように代役で出席したら、結婚する気はないと判断して、怒られるのも無理はなかった。

「ただの冷やかしに付き合うのは時間の無駄だ」
「冷やかし?」

 私に何度も懇願するくらいだ。叔父は本心で桐谷家との繋がりを望んでいる。
< 5 / 83 >

この作品をシェア

pagetop