幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
「きみは素直だな」

 普段よりもやわらかい声色でつぶやかれ、私はドキッとする。

「それなのに俺は、独占欲にまみれたひどい男だ」

 辟易としたふうに天を仰ぎ、秀一郎さんはため息を吐いた。

「ど、独占欲……?」

 言っている意味がわからなくてオウム返しした私は、射抜くような強い目で秀一郎さんに見つめられた。

「ああ。俺は怪我をした織部店長に嫉妬した。きみがあんまり彼に構うから、おもしろくなくて苛立ったよ」

 織部店長に嫉妬? そんなまさか……。

 ドクンと鼓動が強く打ち、呼吸さえままならない。

 唖然とする私の目の前で決して視線を逸らさずに、嘘みたいな本音を打ち明けているのは本当に秀一郎さんなの……?

 これまでの彼と同一人物なのか到底信じがたくて、私はまばたきも忘れた。

「俺の体を心配して真っ直ぐにぶつかってくるところも、一緒に食事をするときの笑顔もかわいいと思った」

 言いながら、秀一郎さんは手を伸ばし、湯だつほど熱い私の頬に触れる。

 反射的に肩がビクッと揺れた。

「思えばきみは幼い頃から無邪気で、可憐で、花のようにかわいかった」

 幼い頃から……かわいかった?

 跳び上がるくらいうれしい言葉たちに、私は頭の中を混乱させる。

「あ、あの!」

 制御の仕方もわからなくなって、私の口から思いのほか大声が出ると、秀一郎さんは頬に触れていた手をパッと離した。

「ちょ、ちょっと待ってください。頭の中が、全然整理できなくて……」

 私は文字通り頭を抱えた。

 短距離走をしたわけでもないのに脈拍が異様に速くなり、息も荒くなった。

「だってそんな素振り、まったくなかったから、びっくりすぎて……!」

 パニックになり早口でつぶやく。

 すると秀一郎さんは、今度は私を落ち着かせるように頭をポンとなでた。

「初めに愛のない結婚だと言ったのはほかでもないこの俺だ。だから一緒に暮らすうちにどんどんきみに惹かれていく自分に、俺自身も正直戸惑ったよ」

 穏やかな口調で言い、私の手をギュッと握った。

「だけど、もう気持ちを隠せない」

 声質が一変する。
< 50 / 83 >

この作品をシェア

pagetop