幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
 眼差しも優しいものから研ぎ澄まされた強さに変わり、私は狼狽した。

「きみを俺のものにしたい」

 握った手をグイッと引っぱられたかと思ったら、交わすいとまなど一切なく強引に唇が塞がれる。

 虚をつかれて目を開けたまま、私は初めてのキスに硬直した。

 音もなく唇が離れるも、鼻先はぶつかりそうな至近距離のまま。

 薄目を開けてこちらを見つめる秀一郎さんの色っぽい眼差しにゾクッとする。

「きみにもっと触れたいんだ」

 まるで夢のような展開に驚きすぎて、頭がフワフワしてきた。

 赤面してうつむく私の顎を器用に指先で持ち上げ、秀一郎さんは二度目のキスをした。

 唇の感触をたしかめるかのように食まれ、口内の質感を舌で丹念に探られる。

「んっ、ふ……」

 それらの連続した動きがだんだん深くなると同時に、秀一郎さんの大きな手のひらが私の耳の後ろや後頭部を心地よくなでる。

 顔の角度を変えるたび、息継ぎさながら唇から熱い吐息が漏れた。

 初めてのキスなのに、心酔するほど気持ちいい。

 秀一郎さんの技にうっとりしていると、名残惜しくも唇は離され、代わりにヒョイッと横抱きにされた。

 突然の浮遊感に面食らう私を抱いて、秀一郎さんはリビングの隣の寝室に移動する。

 二階のお互いの部屋にそれぞれベッドがあるから、ここに入るのは掃除以外で引っ越してきて以来初めてだ。

 体をトスンとベッドに沈められ、私は目を伏せた。

「そ、早急すぎて、その……」

 嫌なわけではないけれど、この状況に即座に対応できるほどの経験値はない。

 私が口ごもらせていると、覆い被さった秀一郎さんは紳士的に口を開く。

「ごめん、無理じいはしないよ」

 けれどもその台詞とは裏腹に、私の上に跨り、首筋に這うようなキスを落とした。

「でも俺は、できれば止めたくない」
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