幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
4 初恋の人 Side秀一郎
 愛未の幼い頃の印象といえば、両親の後ろに隠れていて、会食が進み打ち解けてくるとやがて好きな花の話をしはじめる。

 生き生きとしたその姿はとても可憐で優しくて、花のようにかわいらしい女の子だった。

 親同士交流があったため、年に数回ともに食事をする機会が純粋に楽しみだったし、彼女の笑顔を思い出してはまた会いたいと願ったりした。

 その頃はまだ恋という感情など知らなかったけれど、同じ中学に入学してきた二学年下の愛未を、つい目で追う自分に気づいた。

 ほかの友だち、特に同級生の男子と廊下で仲良さげに話していたり、栽培委員の仲間と仲睦まじげに花壇の世話をするのを見ると、なぜだか無性に悔しいと感じる。

 あの笑顔が俺だけに向けばいいのに……。

 歯噛みするほど強くそう思ったとき、これが好きという感情なのではないかと気づいた。

 つまりは恋だ、と。

 俺は愛未に惹かれ、周りの男子たちに嫉妬していたのだ。

 体育祭で怪我をした愛未を、保健委員の俺が手当てをしたときの、彼女の照れた表情を今でも鮮明に思い出せる。

 愛未も俺を意識しているのではないかと憶測すると、心臓が弾むかのようにドキドキした。

 そんな甘酸っぱい日々がずっと続くのだと信じて疑わなかったある雪の日、彼女の両親が不慮の事故でこの世を去った。

 愛未のお父さんと大学時代から友人関係だったうちの父は激しく落ち込み、家族ぐるみで仲良くしていた母も酷く憔悴した。

 俺も小さい頃から慕っていたふたりにもう会えないという現実を受け入れるのに、時間がかかったのをよく覚えている。

 そして涙を堪えて訪れたお通夜で、静かに泣き続ける彼女を見て、胸が張り裂けそうだった。

 一夜にして最愛の両親をふたり同時に失った愛未はどれほど辛いだろうと慮ると、まるで絶望の淵に立っているかのようで呼吸さえままならなくなる。

 どうにか彼女の力になりたいと願うかたわら、幼さゆえその術がわからず、なにもできない無力さに打ちひしがれた。

 彼女は叔父に引き取られるため引っ越すことになった。

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