幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
 それにその後から、愛未の心遣いに目を瞠るとともに、一挙手一投足が新鮮に愛らしく俺の目に映る。

 彼女が作ってくれる手料理はどんな高級レストランのコース料理よりも美味しかったし、向けられる笑顔にまるで中学生に戻ったかのように胸が高鳴った。

 織部店長を心配する愛未があまりにも親身だったため、ふたりの仲に嫉妬し、絶対に取られたくないと強い感情を抱いた。

 まともな恋愛経験のない自分が、ここまで狭量だなんて思いもしなかったのは言うまでもない。

 愛未への想いが、ただの幼なじみや、愛のない結婚したお見合い相手に向けられる類のものではないと自覚した。

 同居生活が続き、この感情をどう制御したらよいのか頭をもたげていたとき、彼女から中学時代にラブレターを渡すつもりだったと告げられる。

 その瞬間リミッターは解除され、愛未への愛情を抑えきれなくなった。

 自分も思いの丈を伝え、理性が効かずにキスをすると、そこからはもう年甲斐もなく暴走してしまった。

 顔を真っ赤にしつつも拒否をしない彼女を、引っ越してきてから一度も使ったことのないベッドルームに連れ込む。

 これは愛のない結婚だと、最初に壁を作ったのは俺だった。

 それを訂正したいと懇願した俺を、愛未は受け入れてくれた。
 
『……私も、そうなったらいいなって思ってました』

 そう言ったときの照れた表情は、一生忘れることはないだろう。

 加減が効かなくなり、本能に身を委ねる俺に、彼女は初めてだと打ち明けてくれた。

 俺はただ腕の中にいるだけでいいと伝えると。

『そ、それだけでいいんですか?』

 きょとんと言う愛未に、込み上げてくる笑いを堪えきれなかった。

 初めてなのに、なにかしてくれるつもりだったのか?

 健気でかわいらしくて、ずっと俺だけを見ていてほしいと願わずにはいられなかった。

 これからはなにがあっても絶対に手放さない……。

 俺を理解し支えてくれる唯一のいとおしい存在を強く抱きしめ、心の中でそう強く誓った。
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