幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
5 それぞれの、守りたいもの。
 八月に入り、熱い太陽の下で庭の水撒きをするのが日課になってきた頃。

 秀一郎さんのご両親からのお誘いで、休日に一緒に食事をすることになった。

 お父様の体調のいい日が続いているので、ぜひふたりで実家に遊びにきてとお呼びがかかったのだ。お母様が手料理を振る舞ってくれるという。

 お見合いではお父様とは会っておらず、結婚式も未だに未定の状態なので、入籍したからには早めにきちんと挨拶しなければと思っていた。

 それに秀一郎さんの実家には、幼い頃に両親とともに遊びに行ったのを覚えているので、再訪できるのはうれしい。

 けれどもいざうかがうとなると、その頃とは立場も状況もまったく異なるため、ものすごく緊張してきた。

「お母様の一番お好きな花はピンクのダリアですよね?」

 食事会当日の、ご実家に向かう車内。

 今更違うと言われてももうどうしようもないのだけれど、助手席に座る私は両手に抱いたアレンジメントフラワーを見て、不安に駆られる。

 ピンクと白を基調とした、ダリアとカーネーションと薔薇のアレンジメントフラワー。

 今月お母様がお誕生日を迎えると聞き、oliveで作ってきた。

 かわいらしい仕上がりを見ると、もう少し落ち着いた色味に仕上げた方がよかったかなぁと心配になってしまう。

「ああ、うちの母はとにかくピンクが好きなんだ。年甲斐もなくね」

 運転席でハンドルを握る秀一郎さんが、唇を片方持ち上げてクッと笑う。

「年甲斐だなんて、そんな……」

 秀一郎さんのお母様は昔からとてもたおやかで美しく、やわらかいオーラがある優しい女性だ。

 お父様もうちの父に比べたらすごく若々しくて、テレビドラマに出ている渋い俳優さんみたいだなぁなんて幼心に思っていた。

 そんな回想をしていたら、数十分で都中随一の高級住宅街に到着し、秀一郎さんのご実家が近くなってくる。

 懐かしい風景に、つい身を乗り出して流れる窓の外を眺めた。

 すると高級住宅が並ぶなか一際立派な門構えが見えてきて、私の緊張はピークに達する。

 車が停まり、ぎこちない動きで助手席から下りると、私は先を行く秀一郎さんの後に続いた。

「ただいま」

 歴史ある日本家屋の引き戸を開ける秀一郎さんのうしろで、私は深呼吸をする。
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