幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
 すると、アイスクリームを食べ終えた秀一郎さんが容器をテーブルの上に置き、平然と口を開いた。

「愛未は俺の看病に奔走して大変だったと思うけど、あのとき結婚してよかったと心から思ったよ」

 心がキュンとする言葉に、一気に顔面が熱くなる。

 ご両親の前でこういう発言をされるのは、うれしい反面こそばゆい。

「愛未、アイスクリームもっと食べる?」

 恥ずかしさから、食べ終えたアイスクリームの容器を手にしてうつむいていたら、秀一郎さんに勘違いされてしまった。

「え……」
「イチゴとチョコどっちがいい? 取ってくるよ」

 私の返事を聞かずに、秀一郎さんは立ち上がるとキッチンに足を進める。

「どっちも食べたいなら、俺とシェアしようか」

 すでに新しいアイスクリームを冷凍庫から取り出した秀一郎さんに、今更誤解だとも言えない。

「ありがとうございます」

 私はおずおずと手を伸ばし、イチゴ味を受け取った。

「ああ。半分こな」

 満足げに微笑む秀一郎さんを見て、胸の奥が震えた私はただコクリとうなずく。

 薄いピンク色のアイスクリームをスプーンで掬い、口もとに運ぼうとしたとき、正面からの視線に気づいて身を硬くした。

「秀一郎が女の子にこんなふうに優しくするなんて、信じられない……」

 おおげさなほど目を丸くするお母様に対し、秀一郎さんは盛大にため息を吐いた。

「女の子って……。妻に優しくするのがそんなにおかしいですか?」

 躊躇いなく言い放った秀一郎さんを、ご両親はこれまた驚きを隠せない表情で顔を見合わせる。

「だって、お父さんの付き添いで通院すれば、未だにあなたの冷酷な悪態っぷりが耳に入ってくるのよ」
「そうだ、そういう噂はすぐに広まるんだから、おまえはもっと人あたりをよくしなさい」

 ご両親から口々に言われ、秀一郎さんは辟易としたふうな顔をした。

「善処しますよ」

 不本意そうにつぶやく秀一郎さんと、このやりとりに口を挟めるわけもなくただ静止する私を交互に見て、お母様は両手を合わせた。
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