幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
「なんだかすっかりお似合いのふたりね。ね、お父さん」
「ああ、安心したよ」

 お父様とお母様は、今にも跳び上がって手と手を取り合いそうな雰囲気だ。

「幼い頃から知ってるからかしら、隣にいるのがしっくりくるのよね」
「今のふたりを見たら、きっと日比谷……愛未ちゃんのお父さんも喜んでくれたんじゃないかな」

 目尻にシワを寄せて微笑むお父様の言葉に、私は胸がいっぱいになる。

「はい……ありがとうございます」

 声が震えるけれど、せっかくの楽しい雰囲気を壊さないよう、私は涙を堪えた。

「孫も楽しみだ」

 満足げな表情のお父様の発言に、私は目をぱちくりさせる。

「気が早いわよ、あなた」
「そうか、そうだよな。愛未ちゃん、済まないね」

 お母様に制され、お父様はしゅんと肩を落とした。

「い、いえ……」

 私は小さく首を振る。

 後継者が必要な家でもあるし、ご両親としては楽しみにされるのも当然だろう。

 そう思ったのもつかの間、それまで穏やかだったお父様の表情が厳しく変化した。

「秀一郎、桐谷総合病院の名に泥を塗ったり、信用を失うようなことは絶対にするなよ」

 硬い声で言い、秀一郎さんを真っ直ぐに見つめる。

「地域の患者さんの健康も、働いているスタッフの生活も、これからはおまえにの手にかかってるんだからな」
「わかってますよ、父さん」

 秀一郎さんは目を伏せ、一度息を吐くと顔を上げた。

「この病院を守るために俺は結婚したんですから」

 迷いなく言い切る秀一郎に、お父様は力強くうなずいた。

 およそ二時間ほど滞在して、お土産のアイスクリームをいただき家に帰る。

 お父様も元気そうだったし、ご挨拶もかねていろいろと話ができてよかった。

 キッチンに立ち、アイスクリームを冷凍庫に仕舞おうとしていると、リビングのソファに座る秀一郎さんと目が合った。

「どうした? ニヤニヤして」

 指摘され、私はハッとする。

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