幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
暑さ盛りの週末。
午前中にお祭りがあった駅前商店街は、夕方になっても人出が衰えず、普段よりも賑わっていた。
織部店長はリハビリのがんばりもあり、これまで通りの生活を送れるくらい回復し、oliveでは配達業務も再開している。
今日も忙しかった仕事を終えた私はアーケード街を抜け、駅へと急ぎ足で向かっているときだった。
「愛未」
駅前商店街の入り口で私を呼び止めたのは、二度と会いたくないと願っていた人物。
「あ、綾乃……」
明らかに当惑した声で呼ぶと、綾乃は自信に溢れた笑顔で私の前に立ちはだかる。
「久しぶりね、愛未。大学病院で会って以来」
そう、織部店長がくるぶしを骨折して、綾乃が勤める大学病院に入院した日に会った。
それから音沙汰なしだったのにわざわざ私を待ち伏せしていたなんて、嫌な予感がして仕方ない。
「あのとき、私びっくりするような写真を撮っちゃったのよね」
綾乃はバッグの中からスマートフォンを取り出し、話しながら操作する。
びっくりするような写真……?
身構える私に、綾乃がスマートフォンの画面を見せた。
「愛未ってやっぱり花屋の店長とデキてたのね。こんなふうに抱き合うだなんて」
画面に映し出された写真を見た私はギョッとした。
たしかに私と織部店長が抱き合っているように見え、横顔だけれどふたりの顔も鮮明だ。
「なにこれ、いつの間に……」
けれどもこれは大学病院の病室で、バランスを崩した織部店長を私がとっさに抱きとめたときのもの。
……ということは、綾乃はナースステーションで会ったあとにわざわざ私を尾行して、織部店長の病室の前に張り込み、廊下から隠し撮りしたってこと?
動画で撮影していて、この決定的に見える部分だけを切り取ったのだろう。
私を貶めようとするその執念に戦慄する。
「これは抱き合ってたんじゃなくて、織部店長が足を骨折していてよろめいたから支えただけだよ」
努めて冷静に話す私を、綾乃はフンッと鼻で笑った。
「そんな事情、この写真を見ただけじゃわからないわ」
「え?」
「実際はどうであれ、これを見た人は桐谷総合病院の次期院長夫人の不倫現場だと思うんじゃない?」
愉快そうに言って、綾乃はスマートフォンの画面を満足げに見た。
否定ができなくて悔しい。