幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
 もしもこの写真を桐谷総合病院の関係者や患者が見れば、次期院長の奥さんが不倫していると勘違いしても無理もない。

 秀一郎さんのご両親は、きっと話せばわかってくれると思う。

 けれども。

『秀一郎、桐谷総合病院の名に泥を塗ったり、信用を失うようなことは絶対にするなよ』

 この写真が拡散されるのは、正にお父様が懸念されていた事態に繋がるのではないだろうか。

 そう不安に駆られたとき。

「ねえ、この写真を誰にも見られたくなかったら、秀一郎さんと離婚してよ」

 高圧的な物言いに、私は面食らった。

 秀一郎さんと離婚……?

「は?」

 堂々とした脅迫に、気の抜けた声が出る。

 そんな私をあざ笑い、綾乃はスマートフォンをバッグの中に仕舞うと両腕を組んだ。

「やっぱり私、秀一郎さんのカッコいい姿が頭から離れないのよね」

 秀一郎さんを連想する綾乃の目は、恋する乙女さながらにきらめいている。

「そもそも私がお見合いする予定で、あんたは嫌々結婚したんだし、別によくない?」

 正当な言い分だと信じて疑わない口ぶりだった。

 口角はつり上がり声も揺れているので笑っているようだけれども、両目を見開く力強さに彼女の真剣味を感じる。

「じゃ、よろしくね〜」

 歌うような軽い調子で言い残し、綾乃は体をこわばらせて立ちすくむ私から遠ざかって行った。

 綾乃の姿が目の前から消えても、一連のやり取りが頭に居座ってグルグルとかけめぐる。

 綾乃の脅しなんかにはもう屈したくない。

 大好きな秀一郎さんとの離婚だけは、到底受け入れられない。

 でも……。

『ねえ、この写真を誰にも見られたくなかったら、秀一郎さんと離婚してよ』

 彼女に苦しめられた辛い過去の出来事が蘇った。

 私との有りもしない噂を流布された中学の先生は、担任を降り、やがて退職した。

 そもそもこの結婚だって断れば駅前商店街全体のイメージを下げることになると脅され、綾乃の仕業だという証拠はないが実際にoliveに対し迷惑行為があった。

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