幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
 あんな写真が万がいち出回れば、桐谷家や桐谷総合病院の関係者、それにバッチリ顔が写ってしまっている織部店長にも迷惑がかかってしまう。

 そんな事態にはならないよう、絶対に阻止したい。

 心に強く決め、駅に向かって足を動かす。

 電車で帰路に就く間も、まるで洗脳されたかのように、頭の中は綾乃一色だった。

『地域の患者さんの健康も、働いているスタッフの生活も、これからはおまえにの手にかかってるんだからな』

 秀一郎さんのお父様の深刻な表情を思い出すと、頭が痛くなってくる。

 食事会のときの秀一郎さんの一挙手一投足がつぶさに思い出され、私は耐えきれずに胸を押さえた。

『この病院を守るために俺は結婚したんですから』

 秀一郎さんが私と結婚したのは、桐谷総合病院を守るため……。

 だとしたら私は身を引いたほうがいいのではないか。

 家に着いても、思い悩んだまま答えは見つからなかった。



 秀一郎さんは連日長時間の手術が続き、病院に泊まるか、帰ってきてもほんの数時間の着替えとシャワーのみで、ほとんど顔を合わせることがない日々が続いた。

 私はそんな貴重な時間でさえ、秀一郎さんと接するときはビクビクしてしまう。

 以前、秀一郎さんは私と織部店長の仲を妬いたと話していた。

 秀一郎さんは織部店長が骨折して入院したのを知っているけれど、少なからず私たちの間になにかあると疑っていたかもしれない。

 それがあの写真を見ることで、疑惑が確信に変わりでもしないだろうか……。

「愛未?」

 名前を呼ばれ、私はまばたきを繰り返す。

「どうした? ボーッとして」
「あ、ごめんなさい……」

 玄関で出勤する秀一郎さんを見送るつもりが、ただ立ち尽くしていた私は頭を下げる。

「いや、謝る必要はない。ただ最近元気がなさそうだから、どこか体の具合でも悪いのかと思って」
「いえ、大丈夫です」

 抱えきれない不安から、秀一郎さんに対してぎこちない態度を取り、心配をかけてしまった。
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