幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
 叔父やお母様が待つレストランに戻る際も、一歩前を行く秀一郎さんは終始自分のペースで、私を気遣う素振りは露ほどもない。

 帰り際、お母様に「主人も愛未ちゃんが家族の一員になってくれるのを楽しみにしているのよ」と言われ、私は返答に困惑した。

 変貌ぶりを見せられて、冷たい態度を取られて。とてもじゃないけれど家族の一員になんてなれる気がしない。

「愛未ちゃんが秀一郎くんと幼なじみだったとは、まるで運命みたいだな」

 帰りの車内で、運転する叔父はこのお見合いに手応えを感じたのか、ホクホクとした笑顔で続けた。

「秀一郎くんはあの通り気難しい人だけど、医師としての腕はたしかだし、前向きに考えてみてほしい」

 やはり、誰が見てもあの態度は冷酷だと明白。会話すらままならないのだ。

 それでもなお叔父が私にこの縁談をすすめるのは、娘が無理なら養女である私でもいいから、とにかく医学界の権力者と縁者になりたいのだろう。

 国内でも有数の大病院との縁故関係は、喉から手が出るほどほしいようだ。

 私はなにも答えずに、窓の外の流れる風景を眺めていた。

 叔父と叔母には本当に感謝している。

 両親が亡くなってから衣食住を与えてくれて、様々な手続きや遺産の管理など、一手に引き受けてくれた。

 今日は出席しただけで、少しは義理立てできたのではないだろうか。

『だから、きみでも誰でもいい』

 あとはもう、断ってもいいよね……。

 恋愛経験が皆無だし結婚に憧れがあるというわけではないけれど、もしも結婚するならば、せめてお互い思いやりをもって生活できる相手がいい。

 誰でもいい人となど、もう会うことはない。

 そう考えると、少しだけ胸の奥がチクリと痛んだ。


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