幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
「聞いても本音を言わないから、愛未の態度がおかしいのはあなたが原因なんじゃないかと思いまして」

 そこで秀一郎さんは、対面する綾乃を鋭い目で睨んだ。

 凍てつくような目線は、端正な顔立ちゆえ形容できない迫力がある。

「あの、さっきから意味がよくわからないんですけど、私が原因ってどういうことですか? すべて憶測で仰っていますよね」

 それまではまだ秀一郎さんに好意を寄せているふうな態度だった綾乃だが、さすがに怪訝そうに眉をひそめる。

「たしかに最初は憶測にすぎなかった。同窓会で遭遇したときの態度や、あなたの話になったときの愛未の様子から、ふたりの間には確執があるんじゃないかと予測していました」

 そもそもお見合い相手が綾乃から私に変更になった件から、秀一郎さんは私たちの間にはなにかあるのではと感じていたのかもしれない。

 秀一郎さんの洞察力の鋭さに驚くと同時に、理にかなった説明に胸のすく思いだった。

「最近愛未の態度がよそよそしいのはあなたが原因ではないかと思い、先日学会で大学病院から来ていた医師にあなたのことを聞いたんです。そうしたら、大学病院に出入りしている製薬会社のMRの女性となにやら不穏な様子で話していたらしいですね」

 秀一郎さんの発言に、綾乃は顔を歪ませる。

「そのMRの女性と仕事で面識があったので、話を聞きましたよ。あなたは優先的に彼女の会社の薬を使うようお父様である日比谷教授に頼むからと言って、彼女に金銭を要求していたとか」
「金銭を要求……?」

 正義感に満ちた秀一郎さんの凛々しい横顔を見つめ、私は放心状態でつぶやいた。

 まさかそんな犯罪めいたことをしていたなんて、さすがに信じられない。

 一方で綾乃は、イライラした様子で歯を食いしばっている。

「大学病院や受付を派遣している会社に知られれば問題になりますよ。直接賄賂を受け取ったわけではないものの、製薬会社と医師との金銭の授受にはルールが厳しく設けられているのをご存じですよね。あなたが勝手なことをすれば日比谷教授の立場も危うくなります」

 叔父の名前を出され、綾乃の表情が引きつった。
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