幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
「ほかにも恐喝まがいな行為をしているのではないですか? 学会で会った大学病院の医師が話していました。あなたと一緒に仕事をする受付のスタッフはみな早々に退職してしまう、と」

 そして、険のある声で続けた。

「あなたのしていることは犯罪です」

 綾乃の体がビクッと大きく揺れる。

 ここまで調べられては、さすがに観念するしかないと悟ったようだ。

 綾乃はため息を吐くと、スマートフォンを操作する。

「……わかった。愛未の画像を消せばいいんでしょ? 削除するわよ」

 綾乃は不貞腐れた顔付きで、確認のためにかチラリと秀一郎さんに画面を見せた。

 秀一郎さんは男女が抱き合う写真を一時的に目の当たりにし、眉間にシワを寄せる。

「金輪際、我々に関わらないと約束してください」

 先ほどよりもより一層厳しい口調で言い放った秀一郎さんに冷徹な眼差しを浴びせられ、綾乃は顔を真っ赤にさせた。

「そんなの、こっちから願い下げだわ」

 そして悪びれた様子もなく、勢いよく身を翻して綾乃が私たちの前から立ち去った。

 すると秀一郎さんが私の腰に手を回し、壁際に移動する。

「あの、どうしてこんな時間に、こちらへ?」

 おそるおそる私が聞くと、秀一郎さんは長い息を吐き、綾乃が見えなくなった方角を眺めた。

「昨夜きみの態度がいつもと違ったから、悪い予感がした」

 綾乃と対峙していたときの険しい面差しを緩和させ、眉根を下げて私を見つめる。

「ひょっとしたら体調が悪くて仕事に行けず倒れているんじゃないかと思い、仕事はほかの医師に協力してもらって家に戻ったんだ」
「そうだったのですね……。職場にまでご迷惑をおかけして、すみませんでした」

 深々と頭を下げたとたんに、体をまるごとギュッと抱きしめられた。

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