幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
 画像の説明だけで納得した秀一郎さんに、私はコクリとうなずいた。

「あれを拡散すると綾乃に言われて、私のせいで秀一郎さんに迷惑がかかってしまうなら……。桐谷総合病院の名に恥をかかせるくらいなら、身を引こうと決意しました」

 私の話を、秀一郎さんは口を挟まず真剣な眼差しで聞いてくれている。

「ご家族で大切にされてきた桐谷総合病院を守るためには、私はいない方がいいと思ったんです。それに、秀一郎さんは誰よりも患者さんのことを考えている素晴らしいお医者様だから。私のせいで評判が悪くなったりせずにずっと続けてほしくて……」

 声を詰まらせながら話し終えると、私は深く息を吐いた。

 黙って聞いていた秀一郎さんが、私の手に握られたままの離婚届を奪い取る。

「たしかに結婚したきっかけは、病院を継ぐためだ。だけど今は俺にとって、きみより大切なものはないんだ」

 清く澄んだ尊い瞳は、一点の曇もなく私だけを捉えた。

「どうやら今回の件は、俺の愛情表現が足りなくてすれ違いが生じたようだ」

 少し笑いを帯びた声で言いながら、秀一郎さんは私の耳もとに唇を寄せる。

「これからはもっと甘やかさなくちゃな。帰ったら、覚悟して」

 比類のない色気をまとった言葉に、体が震えた。

 渇望していた温もりに満たされる想像が短時間のうちに繰り広げられ、急激に恥ずかしくなる。

 秀一郎さんはたまらず身をすくめた私の手を取り歩き出した。

 途中もう片方の手で、壁際に設置されたゴミ箱に離婚届を投げ捨てる。

 それが臆面もなくとても自然だったので、私は胸がすくような気がした。





< 79 / 83 >

この作品をシェア

pagetop