幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
 そんな楽しみな気持ちの反面、正直これまで注目される機会などなかった私には気が重かった。

 桐谷総合病院の次期院長の披露宴とのことで、結婚式は病院関係者や取引先、更には政財界からの招待客もおり、盛大だろうと心得はしていたけれど……。

 当日になると朝から体がガチガチで、食事も喉を通らなかった。

 ヘアメイクが終わり、青白い顔の自分が大きな鏡に映るのを見つめていると、支度部屋のドアがノックされた。

「わぁ、愛未ちゃん、とっても素敵!」

 神前式で着用した白無垢から純白のウエディングドレスに着替えた私を見て、支度部屋に入って来た秀一郎さんのお母様が声を弾ませる。

「あ、ありがとうございます、お、お母様」

 ロボットさながらの私の口ぶりに、お母様は目をぱちくりさせる。

 私のあまりの緊張ぶりに気づいたのか 、お母様は和やかな笑顔で生花のウエディングブーケに目をやった。

「素敵なブーケね」
「あ、ありがとうございます」
「愛未ちゃんが作ったの?」
「は、はい」

 ウエディングドレスという結婚式にぴったりな名前の白い薔薇をメインにしたブーケは、自分でデザインした。

 一般的な薔薇よりも花びらが開き、ナチュラルでかわいらしい雰囲気もお気に入りだ。

「私も自分で作ったのよ。ピンクのダリアをメインにして、あとは白い薔薇も使ってね」

 お母様は懐かしそうに目を細める。

 ピンクのダリアと聞いて、すぐにピンときた。

 結婚してから初めて秀一郎さんの実家にうかがった際、花束を持参した。

「ピンクのダリアや薔薇は、その頃からお母様のお好きな花なんですね」
「ええ。愛未ちゃんのお母さんも、お花が好きだったわね。ふたりでよくガーデニングの話をしたのを昨日のことのように思い出すわ」

 お母様の声が震えていて、私は目を見開く。

 残念ながらこの晴れ姿を一番に見てほしい両親は、今ここにはいない。

 けれども両親を古くから知る人に見届けてもらえて、とても幸せだと思った。

「きっと今日は、うちの両親も喜んでくれていると思います」

 私の言葉に、お母様は耐えきれず頬に流れる涙をハンカチで拭いた。

 そんな姿を見ていると、こちらまで感極まって泣きそうになる。
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