幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
 私はすっくと立ち上がり、お母様の前に歩み寄った。

「私、ずっとお母様に伝えたかったんです。中学生の頃、叔父の家へ引っ越す際に見送りに来てくださって、どうもありがとうございました」

 心を込めて、深々と頭を下げる。

 この世にひとりぼっちになり心細かったあのとき、見送りに来てくれたのがどんなにうれしかったか、うまく言葉にはできない。

 一番の理解者はもうこの世にはいないけれど、私を想ってくれる人がいるのは心強くて、心の支えになった。

「そんな、いいのよ」

 お母様は左右に首を振り、私を真っ直ぐに見る。

「私ね、あの頃から愛未ちゃんを自分の娘のように思っていたの。年に数回しか会わないけれど、定期的に小さい頃から成長を見ていたからね。だから、引っ越すと聞いて気になって……」

 涙声に、私は堪えきれず口もとを押さえた。

 叔父の車に乗せられる私を窓を隔てて心配そうに見守るお母様が、私も母の姿と重なった。

 車内から頼りなく手を振ると、お母様もたどたどしく手を挙げてくれたっけ。

 最後まで、心配が尽きない表情で。

「本当の家族になれて、すごくうれしいわ」

 回想から頭を戻し、私は差し伸べられたお母様の手を握り返す。

「私もです、お母様」

 泣きながらふたりで微笑み合ったとき、再びコンコンと支度部屋のドアが叩かれた。

「どうぞ」

 鼻をすすって返事をするとドアが開き、白いタキシード姿の秀一郎さんがスマートに現れた。

「秀一郎、着替えたのね。愛未ちゃんも準備ができたって」

 お母様は言いながら、秀一郎さんと入れ替わりで支度部屋から出て行く。

 私は手でサッと涙を拭い、心の中で感謝しながらお母様を見送った。

「体調はどう?」

 秀一郎さんは開口一番、私の腹部に目を向けた。

「はい、平気です」

 少しだけ膨らみ始めたお腹に手をやり、私は笑顔で答える。
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