幼なじみの脳外科医とお見合いしたら、溺愛が待っていました。
 けれども、秀一郎さんはすべてをお見通しのようだ。

「医者の前で嘘を吐くのか? 顔色がよくない」

 緊張で昨夜は眠れなかったのに加え、私は妊娠五ヶ月に入ったばかり。

 夏には秀一郎さんとの間に第一子が産まれる予定だ。妊娠中期に入り、つわりもおさまっている。

 ウエディングドレスも締めつけのきつくないデザインを、ワンサイズ上で着用できた。

「実は極度の緊張状態でして……」

 力なく笑ってみせると、秀一郎さんは包容力のある目で私を見つめた。

「きみは、世界中の誰よりも綺麗だよ」

 私は目を瞠った。

 数秒間硬直し、それから顔中を熱くさせる。

「えっと、ありがとうございます」

 恥ずかしくて上目遣いに秀一郎さんを見る。

 スタイルがいいから、白いタキシード姿が似合っていて素敵すぎだ。

 普段はサラリと自然なニュアンスの黒髪も、今日はきっちりセットしていて本物の王子様かと見紛うほど。

「今さっき、松島……大学時代の同期が部屋に挨拶に来たんだ」

 カッコよさに照れて直視できない私に、秀一郎さんが言った。

「へ? 松島さん……?」

 同窓会で会ったとき、結婚生活についてのアドバイスをくれた方だ。

 あの頃は愛のない結婚だと見限りながらも、秀一郎さんとの距離を縮めたいと願っていたっけ。

「愛未と結婚してから、雰囲気が変わったと言われたよ。やわらかくなったって」
「本当ですか?」
「ああ。きみとの結婚が、いい方に作用しているらしい」

 秀一郎さんの言葉に、私は言い表せないほどの充足感を抱いた。

 美味しいものを食べて、辛いときは支え合って。

 一緒に笑い、一緒に怒り、季節ごとに変わる庭の風景に感動する。

 そんな夫婦としての何気ない毎日の積み重ねが、お互いの幸せを感じる力になるのは、このうえなく幸せなことだと思う。

 そばにいられるのは、決して当たり前じゃない。

 だからこそ秀一郎さんと、これから生まれてくる赤ちゃんとの時間を大切にしていきたいな……。

「愛してるよ、愛未。一生離さない」
「私もです、秀一郎さん」

 手を取り合い、私たちは微笑んだ。

 いくつ季節がめぐり、庭に咲く花が新しくなったとしても。

 秀一郎さんへの想いは変わることがないと、私は確信した。


END
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