彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網
「黒羽君は大学にいたころからとても優秀だったの。彼は学生の頃、私の下で秘書業務からパラリーガルまでひとりでやっていた強者よ。大抵のことはひとりでおそらく管理できる。秘書なんて必要ないかもしれないと思うくらいの人なの。でも今の忙しさじゃ、雑用だけでなく身の回りを片付けてあげられる人が必要なのよ。パラリーガルの池田君達が秘書業務もやらされていて、私にとうとう泣きついてきたの」
「きっと大変なんですね」
「そう。池田君が言うには、黒羽君に何か言われてもちょっとやそっとじゃ逃げ出さない、根性のある人を紹介してほしいと言うわけ。しかも恩師の私がまたも紹介したとなれば、彼もすぐにはクビにできないだろうと言うのよ。でもねえ。以前私の紹介した子をひとり辞めさせてるの」
「えええー!黒羽先生ってそんな人だったんですか?私、ちょっと自信ないんですけど……」
「あなたほど適任者はいないような気がするの。あなたは逃げたくても逃げられない境遇からここまで来たでしょ、自信がないなんて言わないで」
「でも、私の素性を周囲に知られるとかえって事務所に悪評が立つかもしれません」
「黒羽君はそんなこと気にする子じゃないから大丈夫よ。私の一番弟子なんだからね。信頼してくれて平気よ」
そう言われて事務所へ入った。でも噂通り本当に厳しい人だったのだ。