彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網
「言っておくが、彼女は今日までは僕の担当だからな。それと連絡してあった通り、明日から二日間僕は大阪へ出張だ。入れ違いになるから、お前に頼まれていた案件は彼女に聞いてくれ。うちのパラリーガルにも任せてある」
「わかった。いや、わかったが、彼女を渡してくれ。もういい加減食べ終わっただろう」
「川口先生、すぐに黒羽先生のマンションへ鍵を持って行くので、隣のカフェでお待ちくださいと伝えてください」
「聞こえた。早く彼女を解放しろ。さもないと、特別に買ってきてやった12年物のウイスキーやらないからな」
「まったく、しょうがないな。わかったよ。もうデザートだから解放するよ。ウイスキー、楽しみだ」
川口先生は電話を切った。
「しょうがない奴だ」
「川口先生、今日は本当にありがとうございました」
「ああ、櫂が明日までに帰ると言ったのは理由があるんだよ」
先生は小さい声で何か言ったが、聞こえなかった。
私は急いでタクシーでマンションへ向かった。
タクシーを降りると先生がエントランスの入り口に月光をバックに立っていた。彼の美しい顔が青白く浮かんで見えた。まるで美しい幽霊のようだった。
* * *
「先生、お帰りなさい、お待たせしました」
一歩踏み出した彼の顔がはっきりと見えた。忘れもしない切れ長の一重の目。整った顔は相変わらずだ。月光を浴びてその濃紺の三つ揃えのオーダースーツ姿は神々しく見えた。以前より男らしく見えるのは気のせいだろうか。
彼は私を上から下までじいっと見ると言った。