彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網

「うちはあとでもいい。借金があるんだろう。返済は一日でも早い方が利子も増えない。それに一応債務先などを確認する必要はある」

 私は急いで連絡をした。そして隠していた契約結婚のことをうちあけたのだった。お爺ちゃんの驚きは言うまでもなかった。でも、不思議と怒ったりしなかった。来たら相談しようとひとこと言われた。妙だと思ったが、それはすぐに明らかになった。

 * * *

「おはよう。皆久しぶりだ。おかげさまで、あちらでは予想以上の結果を得ることが出来た。それも普段から僕を支えてくれていた君たちのお陰だ。海外からの急な頼みにも応じてもらって感謝している」

 先生の朝礼でのあいさつだ。

 それを聞いた池田さんが言った。

「時差があるのに先生は難しい判例について翌朝までに調べておいてほしいとか平気で頼んでくるし……相変わらずですよ。しかも国際裁判なんて、僕達はろくに知らないのに聞いてくるんですから、調べるのが大変でしたよ」

「そうよねえ、結局先生の妹さんにお力を借りてしまいました。よろしくお伝えくださいね」

「ああ、蛍からそのことは聞いている。あれは身内だから気にしなくていい」

 蛍さんとは妹さんだ。彼女も法律事務所の事務をしていて、お父様の事務所にいる。

「そんなわけないじゃないですか。蛍さんだって忙しいのに、お兄さんの為に色々してくれましたよ」

「そうだ、川口先生だって先生の為、珍しく蛍さんに頭を下げて頼んでたよ」

「こらっ!余計な事言わないのよ」

 佐々木さんが池田さんを小突いた。私はぼうっと下を見ていた。

「先生、水世さんにもお礼を言ったらどうなんですか?ほとんどメールの返事がないって言って、頭抱えて必死にひとりでなんとかしてましたよ」
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