彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網
「先生は子供みたいですね」
先生はふっと笑った。素敵な笑顔だった。
「そうだな。子供のころの思い出にとらわれてそのまま大きくなったんだ」
「え?」
「父は僕が小学校六年生の時に離婚した。それは母の家族が、具体的には母の兄だが刃傷沙汰で逮捕されたからだ」
「え?」
「つまり、母は加害者家族だったんだよ。父は母を切り捨てた。ちょうど父は検事になると決めた時で、父の為に母もそれを望んだ。そして出て行った。蛍がついていくと言って泣いて大騒ぎした。でも父は許さなかった。蛍の為だと言って、母も残るよう説得したんだ。僕は……ずっと納得できなかった」
驚いた。先生も加害者家族だったの?それに、お母さまのことってそんなことがあったんだ。諒介先生が言っていた家族のことでのわだかまりってこのことだったのね。
「その後、料理はたくさんのお手伝いさんが作った。だれもこういうものを作ってくれなかった。父は離婚したが母を愛していた。母も父の為に自分から別れたと知った。そして家族は隠れて定期的に会っていた」
「そうだったんですね」
「僕が加害者弁護をする三峰先生のところに入ったのを知った父は何か感じたんだろう。事件から十年経った頃、父は母をとうとう呼び寄せ家族で再び同居しはじめた。でも再婚はしていない。今でもそのままだ……僕のいいたいことはわかったかい?」
私は胸がいっぱいになって涙を流した。
「はい……よく……わかりました」
「僕は君に再会したときから、何かあれば今度は僕が君を守ると決めていた。そう言ったはずだが、忘れたか?」
「先生……」